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宗教や芸術のために命を投げ出した人こそ幸せである

魂の芸術(2)命を燃やした芸術

概要・テキスト
人間は「命懸け」のものに感動する。銀行強盗を描いた映画でも、その命懸けの姿を見せてくれるものは、感動するのだ。古来、大宗教家たちは、「俺のために、お前が死ね」と言えるような人だった。明治国家も、全盛期のアメリカも、「国のために死ね」「民主主義のために死ね」と言える国だった。だがいまや、命を吸い上げるほどの力を持っているのは、芸術だけである。だからこそ、今、芸術が重要なのである。(全10話中第2話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:11:17
収録日:2019/09/11
追加日:2019/11/15
カテゴリー:
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≪全文≫

●「何か」のために自己を捧げる


―― 逆の意味で言えば、戸嶋先生も執行先生と出会うことによって、自分の生きてきた人生に意味を付けられたのですね。哲学と歴史の観点から、自分が描いていた絵がどの辺に位置するか。

執行 戸嶋自体は知らずに描いていますが。

―― ハイデッカーの『存在と時間』と結び付けてくれた。それはすごいことです。

執行 「時間化」だけではありませんからね。例えば戸嶋が街や山など自然を描く場合は「時間化」作用ですが、肖像画など人間を描く場合は、ハイデッガーの理論で言う「存在の根源的共同化」が出てきます。「根源的共同化」とは、生命の本当の交流です。生命が交流しなければ描けない描き方をしてるのが戸嶋なのです。

 だから戸嶋は人物画に関しては、本当の人物とは全く違うものになります。描かれた人間の生命がつくられた宇宙的な元存在と、絵を描く戸嶋の自分自身の生命がつくられた元存在、両者の元存在が、この世で、この地上で交差することになります。これがハイデッカーの言う、存在の「根源的共同化」なのです。

―― 「根源的共同化」ですか。

執行 それが戸嶋の絵の人物画には全部あるのです。そういうものを描ける画家が、なぜ描けるかというと理由は簡単で、芸術に命を投げ出して、自分の命全部を芸術に叩き付けてきたからです。命を投げ出さないと、宇宙エネルギーとは貫通しません。

―― そういう意味で、かつての宗教家も、そうですよね。

執行 宗教はそれをさせるものですから。キリスト教の殉教ではありませんが、キリスト教では、何十万人、何百万人という人が、ローマ帝国の頃から言えば磔になっています。それでも信じた。人間の魂というのは、信ずるもののために死ぬのが人間で、その信ずるものが何かは関係ない。僕に言わせれば、悪徳でも何でもいいのです。

 たとえば僕は、西部劇の映画が好きでよく見ますが、有名な『明日に向って撃て!』は銀行強盗の話です。それでも見た人は、みんな感動すると思います。

―― 確かに『明日に向って撃て!』は感激しました。

執行 銀行強盗なのに、感動する。なぜかというと、命懸けだからです。要するに人間は命懸けのものに感動するし、われわれの命は、何かに捧げるためにあるのです。

 そういう部分がもともとあって、だから「愛国心」とは国に捧げるということです。国に捧げるの...
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