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数千年の歴史のなかで勝ち残ってきた文明が4つある

宗教で読み解く「世界の文明」(1)文明とは何か

橋爪大三郎
社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授
情報・テキスト
4行でわかる世界の文明 (橋爪大三郎著 角川新書)
文明とは、言語や民族によって理解できる文化よりも一段高いレベルにある、歴史上勝ち残ってきた大きな集団である。とりわけ宗教からこの4つの文明を把握することで、混沌とする現在の世界を理解できる。(2019年11月12日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「宗教で読み解く世界」より、全9話中第1話)
時間:08:26
収録日:2019/11/12
追加日:2020/04/26
カテゴリー:
≪全文≫

●文化と文明


橋爪 橋爪と申します。よろしくお願いします。今日のテーマは「世界の文明」です。『4行でわかる世界の文明』(角川新書)という本を書いたのですが、4行で分かるかどうかは別として、世界の文明についてお話しします。

 文明とはどういうものかというと、文化よりももう一段、レベルが高いものです。文化は、分かりやすいでしょう。言語、民族、人種、風俗、習慣などと密着しており、これらによってつくられるグループは地球上にたくさんあります。言語は3000~5000ほどあるので、文化も少なくとも3000~5000あると思われます。3000~5000で人類を割ると、何百万~何十万という数の集団になります。これが文化です。

 文化も大きくなることがあります。日本もおそらく文化だと思います。日本を定義する際には、日本語や日本人、日本の自然環境、風俗、習慣、歴史など、いろいろありますが、つまり、中身によって定義できるのです。


●4つの主要文明


 それでは、文明とはどのようなものでしょうか。文明には複数の言語があります。また、多民族です。いろいろな民族が入っているということです。つまり多文化です。いえばキリがないのですが、文明とは文化を束ねたものと考えれば良いでしょう。

 なぜ文化を束ねて、もっと大きな集団をつくるのでしょうか。古代は非常に厳しい競争社会でしたので、そこで勝ち残る生存戦略のために、もっと大きなグループをつくりました。それが2000~3000年前の有り様だとすれば、その後いろいろな文明が提案され、その中で勝ち残ったものが、現在では4つあると言えると思います。

 上のスライドに絵が描いてあるかと思いますが、これが世界です。私の考えによると、文明は、現在4つあります。ほかにもあったかもしれませんが、滅んでしまったり小さかったりするので、重要なのでは4つです。

 1番目が、ヨーロッパ・キリスト教文明です。これはヨーロッパが中心で、キリスト教がベースです。2番目がイスラム文明です。ミドル・イーストがセンターで、イスラム教がベースです。3番目がインドのヒンドゥー文明です。ヒンドゥー教がベースです。4番目が中国で、儒教文明です。儒教がベースです。これらが10~20億人という大きな集団をつくっています。ヨーロッパ・キリスト教文明は25億人、イスラム文明は15億人、ヒンドゥー文明は10億人、中国文明は13億人です。今、人類は74億ぐらいいますが、これらだけで、もう60億人を超えてしまいました。つまり全体の80~90パーセントは、この4つのどれかだと考えられるのです。そのため、この4つの文明をよく理解することで、人類文明をよく理解することができます。


●文明を考察してきたマックス・ウェーバー


 ものを考えるときには、こうした文明を相手にして考えなければいけません。しかし普通の社会科学は、そのようにできていません。普通の社会科学は、ヨーロッパ・キリスト教文明によってできたものです。本人たちは意識していませんが、ヨーロッパ・キリスト教文明に合うように、社会科学はつくられてきたのです。そのものさしでイスラムやインド、中国を分析しようと思うと精度が良くないので、ピントが合いません。なかなか理解が難しいという現象が起こってしまいます。

 例えば、経済学にはたくさんの古典があるのですが、そこでは市場経済や自由主義といった概念がつくられました。しかし、これが当てはまるのは、ヨーロッパのみです。イスラムやインド、中国にそれらが同じように当てはまるのかは、保証の限りではありません。政治学でも、例えば民主主義や憲法、法の支配など、さまざまな概念を生み出してきました。しかし、これらもヨーロッパの話なのです。イスラムやインド、中国で通用するかどうかは保証の限りではありません。

 それでは、代わりにどのようなメガネをかければ良いのかというと、そういうものはあまりありません。それでは皆、非常に困ってしまいます。問題点は分かりつつも、困っているというのが、21世紀の現状です。

 社会科学者のなかで、これを十分意識して仕事をした人がいないわけではありません。政治学者や経済学者にはそういう人いません。人類学者は、多様性を十分意識して仕事しているのですが、人類学者が扱うのは文化です。だいたいは文字がない社会に行き、「こんな村の生活でございます」といったレポートを書きます。そのため、人類学では、もっと大きな、歴史と伝統のある発達した社会には手が届きません。これは空白領域なのです。そこで、社会学者がこれをやりました。といっても、1人しかやっていません。マックス・ウェーバーという人です。


●宗教から4つの文明を理解する


 マックス・ウェーバーという人は、『経済と社会』...
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