●総力戦時代における日本の陸軍
片山です。今回のお話は、少し前に私が出した『未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命』(新潮選書)という本についてです。この本は、第一次世界大戦からちょうど100年後に出されました。第一次世界大戦は、1914年~1918年に生じました。そのため、ベルサイユ講和条約が結ばれてから100年後が2019年です。
京都大学では、第一次世界大戦についての研究会が長らく行われていました。ベルサイユ条約から100周年に合わせた時期に、私はその研究会に呼ばれました。そこで「日本と第一次世界大戦」というテーマで、研究していたことを発表することになり、なかば無理やりではありましたが、思いついたのが「未完のファシズム」で、それを本にまとめることができました。
そこで論じたのは、第一次世界大戦という総力戦の時代に直面した後、日本の陸軍がいかに対応していったのかということです。第二次世界大戦の日本の陸軍は、良く言われることが少ない組織です。第一次世界大戦をよく分かっていなかったため、その後もダメだったのだという議論が、よくなされています。それに対して私の考えは、日本の陸軍は第一次世界大戦をよく分かっていたにもかかわらず、力がないので対応できず無理なことを考え、結局おかしくなっていったのだ、というものです。「未完のファシズム」は、こうしたストーリーで日本の陸軍を描きました。
●戦前日本は独裁ができない仕組みになっていた
『未完のファシズム』という書名は、戦前日本の問題が、単に陸軍に限ったものではないということを表しています。陸軍も、一本筋を通そうと思っていました。陸軍の中でも色々なアイデアがあり、大正時代から「こうすればなんとかなるんじゃないか」とずっと模索されていました。しかし明治憲法体制の日本は、そうしたアイデアを統一的な国家ビジョンに高めて貫こうとしても、非常にやりにくい組織になっていました。
一般に、明治憲法体制や大日本帝国、帝国主義、明治政府は、戦後の日本よりも非常に強権的であり、強い国家指導によって実現していたと考えられています。非常に国家主義的で、帝国主義的であるという歴史観です。今でもそう思っておられる方が多いでしょう。しかし私の理解では、こうした歴史観はあまり正しくありません。少し後で補足しますが、明治国家は王政復古です。王政復古と...
(片山杜秀著、新潮選書)