●IMFの「楽観的」予測に基づく世界のGDP推移
ここまでの講義では、いろいろな理論や経済による対応、政策の動きなど、世界主要国の経験したこの半年間の経緯を見てきました。それらを踏まえた上で、IMFによる世界経済予測を見ていきましょう。
IMFの調査分析能力は非常に高く、信頼性も高いのですが、この時期にも今年と世界の世界経済予測を、国別と世界全体ということで、見事に行っています。それが4月13日に発表された“World Economic Outlook(WEO: 世界経済予測)"です。今回は、この内容を簡単に振り返ってみたいと思います。
この予測では「基本シナリオ(ベースライン)」が描かれています。どういうものかというと、「2020年の前半、世界中はコロナパンデミックに打撃を受けたが、後半になると収束するだろう」ということで、ある意味で楽観シナリオといえそうです。
表1(「世界経済成長率予測IMF<2020年4月>)を見ていただくと分かるように、一番上の世界全体のGDPについては、2019年実績が2.9パーセント、2020年はマイナス3.0パーセントとなるものの、2021年はV字回復を遂げて5.8パーセントとしています。これは楽観シナリオに立った予測です(※その後、6月25日の発表では2020年-マイナス4.9パーセント、2021年5.4パーセントに下方修正)。
アメリカを見ると、2020年がマイナス5.9パーセントで、2021年がプラス4.7パーセント。日本は2020年がマイナス5.2パーセントで2021年が3.0パーセント。惨憺たる状況からの回復が示されていますが、これはかなりの楽観が含まれています。各国から基金を集めているIMFとして、まさか世界が崩壊するというようなことはいえないからでしょう。
●「三つの代替シナリオ」に基づく世界の経済
しかしIMFの内部にいる人に聞くと、もっと率直なことはオルタナティブとして、これに代わるシナリオを三つ描いているのだといいます。
一つ目の代替シナリオは、感染が2020年後半に収束せず、感染収束にかかる時間を1.5倍と見積もるものです。2020年いっぱい、苦難が続くということになります。この場合、基本シナリオに比べて2020年にマイナス3パーセントの下振れが起こるので、世界平均ではマイナス6パーセント、日本ではマイナス8~9パーセントになると予測できます。
次のシナリオは、来年第二波が発生するものです。基本シナリオに比べると、来年の数値がマイナス5パーセント下振れします。ベースラインでは2021年にV字回復すると言っていましたが、それができず、世界平均の成長率はマイナス0.8パーセントになります。
三番目のシナリオは、2020年中にウイルスが収束せず、2021年には第二波が来るというものです。これによって起こるのは、2020年の成長率世界平均が第一代替シナリオ同様マイナス6パーセント、2021年ではマイナス8パーセントの下振れが発生するため、V字回復が遂げられずマイナス2.2パーセントという暗い予測です。暗いとはいえ、このシナリオの実現可能性は否定できません。
●「3年かかってもコロナ前に戻れない」のが現実的可能性
図8(「IMF世界経済予測:より深刻な3つの代替シナリオ(<ベースライン予測との乖離>)を見ていただきましょう。基本シナリオ(ベースライン)は一番上のゼロを示す横棒になります。
青い線は第一代替シナリオで、感染収束が長引くもの。2020年の数値がマイナス3パーセントになっています。その後は徐々に回復しますが、3年かかってもベースラインまでは到達しません。赤い線と黄色い線が来年の第二波を予想したもので、2021年になってどんと落ちます。この場合、回復にはさらに時間がかかります。第二波の襲来が地獄をもたらすことが分かりますが、そんな姿をもIMFでは一応想定しています。
ただ、この図表はIMFの報告書の中ではとても小さいスペースしか割かれておらず、非常に読みにくくなっています。やはりこれを世界中でいわれると、政治家たち(特にトランプ大統領)に睨まれて大変なことになるのでしょう。IMFの現理事長はクリスティーヌ・ラガルド氏の後任で、ブルガリア出身のクリスタリナ・ゲオルギエバ氏です。トランプ氏が押し込んだ人といわれていますが、とてもよくがんばっていると思います。
さて、ごく最近(6月8日)になって世界銀行が同じような見事な分析をしています。IMFが2020年をマイナス3パーセントと言ったところ、マイナス5.2パーセントの数字を出しています。OECDは6月10日に予測を発表しましたが、マイナス7.6パーセント。このように、だんだんと見方が悲観的になっているのは、世界経済の動きを反映しているのだろうと思います。
●金融市場では何が起こったか
IMFはこのような全体展望を“W...