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日本人が理解しにくい米中関係の歴史の「後ろ暗い関係」

歴史から見た中国と世界の関係(2)200年以上の歴史を持つ米中関係

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
アメリカと中国の関係は、ある意味アメリカと日本よりも親密である。アメリカは独立以前から、中国と貿易関係にあった。またアヘン戦争後はアメリカも中国にアヘンを売っていた。さらに辛亥革命で清朝が倒れると、中華民国を民主化させる幻想を持つようになる。中国への幻想が強まるほど、日本に対する見方が厳しくなり、アメリカにとって日本と中国は、ヤジロベエのような存在でもある。(全10話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:22
収録日:2020/08/21
追加日:2020/09/28
≪全文≫

●アメリカ独立以前から始まっていた中国との貿易


―― まさに今、2020年の大きな問題を取り上げていただきました。ここから先を見通す場合、やはり歴史的な経緯、つまりアメリカと中国がどういう歩みをしてきたかを知っておくことが必要になると思います。

 ある意味でアメリカは、日本よりも中国と親密に結びついてきたという見方もあります。そのあたりはどうでしょう。

中西 米中関係を見るときに大事なのは、米中関係は日米関係よりもずっと長い歴史があるということです。さかのぼればアメリカ独立以前から、中国とアメリカには濃密な貿易関係がありました。

 アメリカの北東部、マサチューセッツ州のボストンや(ペンシルバニア州の)フィラデルフィアといった、イギリス時代からある古い港町の貿易商人たちは、「チャイナクリッパー」と呼ばれる帆船で、中国貿易に従事していました。主に中国のお茶をアメリカに運ぶもので、これによりイギリス経由で高いマージンを取られるのを避けようとしたのです。これが「イギリス何するものぞ」というアメリカ独立の気概の始まりでもありました。「自分でお茶を調達する」という歴史が、200年以上前からあったのです。

 その後、アメリカは国内問題に集中していきますが、イギリスと中国とのアヘン戦争を機に中国が開国すると、アメリカは欧米の一国、国際社会の一員として、中国貿易にいっそう深くのめり込んでいきます。

 ここでアメリカ人があまり言わない歴史があります。それはイギリスほどではないにせよ、アメリカも中国にアヘンをたくさん売りつけて、暴利をむさぼった貿易商がいたということです。イギリス人がよく言うのが、「アメリカ人は自分たちの尻馬に乗ってアヘンを売りつけたくせに、後で口を拭って善人面をしている」というものです。そして「私はイギリス帝国主義とは違います」みたいな顔をして、アメリカの宣教師がどんどん中国に乗り込んでいった。「これはフェアではないのではないか」と、今でも口に出して言います。イギリス人のアメリカに対する恨み辛みのような感情は、そういうエピソードに一つ表れると思います。

 実はその時アヘンをたくさん中国に持ち込み、莫大な利益を得た貿易商の一人が、フランクリン・ルーズベルト大統領のおじいさんです。母親の父で、ウォレン・デラノというアヘン商です。

―― その意味では、フランクリン・ルーズベルト大統領と第2次世界大戦中の中国との関係は底が通じるところがありますね。

中西 そうです。ちょっと後ろ暗い関係が、その後のニクソン訪中に至るまで、ずっと続くのです。この米中関係の裏にある両国のいろいろな「机の下の関係」が、なかなか日本人には理解しにくいところですが、これが大事であることは歴史を見れば少し分かってきます。


●中国の革命に「幻想」を抱いてきたアメリカ


中西 いずれにせよ20世紀に入っても、そうした米中関係は続きます。特に孫文の辛亥革命が1911年に起こり、清朝が倒れて中華民国になると、これを契機にアメリカは中国を民主的でアメリカモデルの議会制の国にしようと考えます。「中国を改造する」というミッションが非常に強くなり、アメリカ国内で「チャイナブーム」「中国幻想」といったものが起こります。

“中国はたくさんのアメリカ人宣教師の活動によって、急速にキリスト教に改宗しつつある。中国数億人の民が、キリスト教徒になる。キリスト教徒になれば、必然的に民主主義、自由主義の国に変わるはずだ。アメリカの弟分として、われわれを手本にした新しい民主主義の国が、アジアの大国の中に生まれるのだ”

 これがアメリカの抱いた、素晴らしい夢だったのです。中国革命が実現した1912年、つまり明治の終わりや大正の初めぐらいから1949年の毛沢東の中華人民共和国成立まで、一貫したアメリカの、あるいは米中関係の通奏低音としてアメリカの底を流れていたのです。

 だから、アメリカと日本との関係は、非常に悪くなります。日米対立の原因は、実はアメリカの中国に対する夢、幻想にあります。「民主主義キリスト教国化に向かっている中国をいじめる日本」「軍国主義でキリスト教を受け付けない、非常に布教しにくい日本」「天皇を戴く、イギリスのような頑迷固陋(がんめいころう)な保守主義の国・日本」。こういうイメージがアメリカ人に植え付けられ、中国を美化する反動で、日本をデモナイズ(悪者視)する傾向が、ことさらアメリカで強まっていくのです。

 ここは今も非常に面白い現象として続いています。アメリカの政治学者シーラ・ジョンソンによると、アメリカと日本との関係が良くなるのは米中関係、つまりアメリカが中国に悪い感情を持つ時代です。その逆もまた真で、米中関係が非常に蜜月、あるいは中国がアメリカをモデルにして民主主義に...
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