●「スペインかぜ」の時に世界はどう動いたか
小原 私は現在の状態を二つの危機、つまり「複合危機」と呼んでいます。一つは「健康の危機」で、もう一つは「経済の危機」です。この二つの関係が非常に難しく、前回言った厄介な問題だということになります。
健康の危機については、究極的にはワクチンや治療薬ができるまで、この危機が続きます。ワクチンや治療薬がない以上、第二波や第三波も含めて不確実性が伴う。いったん収束しかかったかと思うと、また次の波の来る可能性があるということです。
それを象徴するのが、実は100年前に起きた「スペインかぜ」です。実際にはかぜではなくてインフルエンザですが、俗称「スペインかぜ」と呼んでいます。このときにアメリカの43都市でどういう措置を取ったかというデータがちゃんと残っています。そのデータに基づいて、実は本当に大事な報告書が二つ出ているのです。
―― それは、当時の文書ということですね。
小原 いや、報告書自身は21世紀になってからのものです。最初の報告書はCDC(感染予防管理センター)が2007年につくったもので、もう一つは今年(2020年)の3月にFRB(連邦準備制度理事会)やMIT(マサチューセッツ工科大学)の専門家がつくったものです。
●スペインかぜ感染抑制に効果的だった措置とは
小原 最初の報告書には、まさに健康の危機について書いてあります。迅速で持続的で多層的な措置をしっかり取れば、健康の危機を抑え込む効果が大きかった。そうした措置をしっかりと長く、いくつもまとめて取った都市ほど、感染を抑え込むのに効果的だったというのが結論です。
もう一つの報告書は、そうした措置をしっかり取った都市と経済の危機の関係です。つまり、タイミングとしていつ取ったのか、どのぐらい取ったのか、それからどの程度強くやったのかという三つです。この三つの措置をしっかり実施した都市ほど、経済の回復の度合いが大きかったという結論が出ているわけです。
したがって、この二つの報告書に沿った対応をすれば、危機に対してかなりうまく対応ができたのではないかと考えられます。
―― ということは、早く封鎖や隔離をしたりするのが大事だったということですね。
小原 ええ。そうした措置を取るのか取らないのかというところで、中国とアメリカの対応およびその結果が分かれてしまっているのが現状だと思うのです。
ご存じのように、中国は権威主義体制の国ですから、強権に頼って初動は大失敗しました。しかし、強権による隔離や都市封鎖を徹底したことにより、世界に先んじて感染を抑え込み、経済を再開するような状態になりました。もちろん、先述した体制の国ですから、いろいろな情報が今も十分出ていないということはあると思います。ただ、かなりそういう意味でうまくやってきたことは事実です。そのような事実に基づいて、政府の当局も自信を示しているということです。
これに対してアメリカでは、これだけの報告書が出ているにもかかわらず、トランプ政権は事態を楽観視してしまいました。「たいしたことない」ということで対応が遅れ、しかも不十分で、それにより一貫した政策も打てなかった。まさにそういうことを通じて、特に経済再開を急いだ州では感染が再び広がり、死者も増大するという混乱した状況が今も続いているということです。
このような中国とアメリカの対応と現状の違いが、両国の政治システムやガバナンスに通じます。ガバナンスを中国語では「治理」という言葉で表し、国内のプロパガンダとして使われています。世界においても、いろいろな専門家がそうした点について議論をしているところです。
●コロナ・パンデミックはいつ終わるのか
小原 それでは、今のパンデミックはいつ終わるのか。先ほども言ったようにワクチンができるまでは不確実性が伴うということで、まさにその不確実性の中にわれわれは今いるわけです。当初の短期シナリオはもう完全に崩れてしまいました。
つまり、ここに記しましたように当初の希望的観測でしかなかったということで、IMF自身も経済成長見通しについて修正をしています。当初2020年はマイナス3パーセントの見通しだったのが、マイナス4.9パーセントにまで下方修正したわけです。そうなると、やはり長期シナリオになってくるわけです。先ほどのスペインかぜでも第二波・第三波が起きたこともありますし、ワクチンができて流通するまでは長期化していくだろうという長期シナリオが出てきました。
これを戦略的に権力政治の観点から捉えて議論する政治家もいるわけで、その中心にトランプ氏がいます。もちろんアメリカだけでそれを独占しようとしても、...