●香港とアメリカのデモ鎮圧はイコールか
―― 一方の中国には、香港での暴動鎮圧やウイグル問題など、人権侵害が相当なされているという批判があると思います。そのあたりは中国へのカウンターとして議論されるということですね。
小原 そうですね。香港については、2020年6月30日に全人代が「香港国家安全維持法」を採択して、すぐさま施行しました。それに対して、「一国二制度」の肝である香港の自由を制圧するものであり、一国二制度が色あせていくという議論が噴出します。
多くのメディアは、自由より民主を中心に報道していますが、香港の基本法については、英中の交渉と合意があった後につくられてきたわけです。もちろん中国本土と違って自由については書き込まれていますが、民主については最後の目標としています。行政長官にしろ立法院にしろ、最終的な目標としては「普通選挙を目指す」と書かれていますが、そこで保障されているわけではないのです。
学生中心の民主化運動は、雨傘運動以降ずっと盛り上がってきました。さらに前史として、天安門事件の余波や影響もあったため、そこにみんなが焦点を当てたのだと思います。
しかし、本土がガチョウかニワトリだとすると、香港はまさに金の卵です。それを保っていくため、経済策としては自由中心の「レッセフェール(フランス語で「なすに任せよ」という意味)」が適用されてきました。ただし、そこには透明性があり、腐敗のないルールがあったわけです。こうしたものが、世界的な国際経済都市・金融都市として評価の高い香港の繁栄を支えてきました。そこが失われてしまうのではないかという議論があります。
ところが、実際に起こっていることとして映像で見せられるのは、警官と学生たちの衝突であり、暴力が振るわれるか振るわれないかです。それは多分アメリカでも起きているようなことでもある。そうすると、中国から香港に対して「ダブルスタンダードではないか」と批判が起こります。
学生たちの活動を取り締まるのはけしからんと言っているけれど、アメリカで行われていることもそれに近い。平和なデモも行っているのに、一部が少し暴力的に走ったからといって、軍隊を出すなどと言っている。「トランプ氏のやっていることは、香港がやった以上のことかもしれない」と中国側が反撃に出ているわけです。
●国民を真に代表する党と「リヴァイアサン」
そして、もう一つ。そういった中で、では国民を真に代表する政党は一体どこなのかという議論もあるわけです。
―― はい。
小原 国民が本当に求めるものは何かということ自体、なかなか難しいことです。国民も多様であり、置かれている状況は経済状態から全て違いますから、一つのコンセンサスを共有できるわけではありません。
しかし今回のように、「安全か、自由か。プライバシーの制限か」という状態になると、あまりに安全が脅かされるところで自由を言い立ててもしようがないということになります。後ほど議論しますが、社会がある以上まったく制約のない自由というのはあり得ない。自由には責任というものが伴うと思います。
例えば今、アメリカではトランプ大統領に対する支持がまた盛り返しています。その背景に、治安の悪化に対する不安や恐怖がある。結局、今回のコロナでも、一番大きな要素として気をつけないといけないのは、人類の恐怖なのです。
前回ホッブズの話をしましたが、彼はまさに巨大な海獣である「リヴァイアサン(Leviathan)」を、主権の体現に見立てました。これは聖書から来ている名前ですが、これが自然権を全て集めて主権を体現し、暴力を独占していくプロセスには、一人一人の個人がいつか誰かに暴力を振るわれてしまうのではないかという恐怖があります。
自分が生存していくうえでは、大変な不確実性があるという不安です。昔にもペストの大流行のような感染症もあれば、戦争もありました。いろいろあるわけですが、やはり安全ということに対する恐怖が、人間にとっては一番強いのだと思います。
●コロナの中で安全を守っている政党はどこなのか
小原 国民の安全というものを考えるとき、外せないのが国益という概念です。私は国益について研究してきましたが、国益の中には「死活的な国益」という概念があります。死活的とは何かというと、最も大事な国家の利益のことで、国民にとって最も大事な利益は何かというと、これはやはり「安全」なのです。
そこで、今回こうしたコロナの中で安全を守っている政党はどこかという話になると、冒頭のWHOの統計を見れば明らかです。アメリカがあれだけ多くの感染者や死者も出している点を見ると、アメリカの共和党や民主党は本当に国民の安全を守っている...