●ショートタームでスモールサクセスをつくる方法
―― オックスフォードで西川さんが講義をした資料が私の手元にありますが、これは本当に驚くべき速さですね。最初の2年間で第一ステップを超えて、それで第二ステップに回していくという。
西川 そうですね。その段階では、中にいたわれわれも、あるいは当時の社長であったゴーン社長自身も、どんなペースで事を進められるのか、100パーセント確信があったかというと、そうではないと思います。ただ、「こっちに行こうね」と方向性があり、「最初はまず、ここまでやろう」というやり方をしたわけです。
ところが、ある程度スピード感をもって進められたので、途中であまり迷わずにできた 。マトリクスによる仕事のしかた、軸を通していく仕事のしかたが、最初の段階、次の段階というかたちでスムーズに進めた背景に、それがあったのではないかと思います。
―― 最初の1年が経った段階で、もう半期で黒字が出ました。まずショートタームでスモールサクセスを作ってしまうという、このやり方もすごいですね。
西川 ゴーン社長自身、全体を大きな場と見て、そういう仕事をされましたし、われわれも同様です。仕事のしかたが整理されていないときには、ある部分で、ある目標を持つ。「この目標に向かってやろう」というなかで、小さい成功でもいい、「できたね」ということがあれば、 プロセスをさかのぼって「どういうことをすればよかったのか」と整理することができます。
組織運営である以上、取り組む前には当然「プロセス・アンド・プロシージャ(process and procedure: 何をどのようにするのか)」をきちんとして、KPI(Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)を決めます。しかし、ここにあまり細かくこだわっていると、なかなか進まない。ざっくりと決めて、まず成功体験を積み 、「こういうやり方をすればいいんだね」と実感することです。そのほうがおっしゃった通り、速いし、現実的だし、具体的だという感じがします。そういうことを全社的に体験させようという仕掛けで動かせた のだと思います。
●機能をまたいで成果を出すための方法を経験した人材
―― 西川さん自身もそうですが、新しい改革チームのメンバーの人選を急がれました。そのメンバーの人たちが2年で経営者人材として育たれたということなのですね。
西川 その段階で育ったというか、要するに「一つの機能のなかの仕事をしているだけでは、会社はよくならない。それを俯瞰して結果を出していくという仕事が非常に大事なのだ」ということです。当たり前の話なのですが、機能をまたいで成果を出していく。そのために仕事をリードしたりファシリテートしたりする機能が非常に重要 だということを経験した人間が、かなりできたということだと思います。
―― 元々、日産自動車自体は優秀な人が入っておられましたし、その優秀な人たちが残っておられた。そこに全体の進むべき絵図面と、どういうやり方をすればいいのかという定義を与えて、それぞれが俯瞰して見られるようにしていく。それを始めたら、組織自体がまったく別物の動きに変わってくるわけですね。
西川 そうですね。絵図面とおっしゃいましたけれども、そういう場が設定されて、それがトップマネジメントからサポートされている状況になっていくと、現場は知っている人間は多かったので、その知識と経験をもとに、かなりのスピードで改善・改革を進めていけたのだと思います。そのため、1990年代の状態から一歩抜け出すところまでは、相当なスピードで来たと思います。
●ヨコ軸とタテ軸の具体的な通し方
―― それで、次の第二ステップに移られるわけですね。
西川 やっている最中に第二ステップを意識したかどうかは分かりません。私が振り返ってみると、そういうふうに見えるなあというところです。
当時はまだ中国が本格化しておらず、日本とヨーロッパと北米の三つが大きかった時期です。そこで機能別にヨコ軸を通す。共同購買がそうですし、生産技術、物流等々もそうです。そういうヨコ軸を通すことで、1990年代に取りこぼしていた部分が、私のざっくりした感覚では7割方、本来あるべき効率に近づいた のではないかと思います。
そこから先、事業をさらに発展をさせていくためには、マーケットをベースにした地域の事業軸においてPDCA(PDCA: Plan(計画)Do(実行)Check(評価)Act(改善))がきちんと回るようにしていかなくては いけない。それが次のステップというわけです。
そこを加えていくことで、グローバルなマネジメントがうまく回るようになるということだと思います。
ですから、明確な第一段階、第二段階(と分けられるわけ)ではないですけれども、まず最初に「機能軸」を通して、ここの効率を上...