●あとから見ると単純だが、中の人からは分からなかったこと
西川 ゴーン体制になって、生産、物流、購買というものづくりの軸を(地域横断でグローバルに)通し、それとは別に、販売を直接つなげた地域ごとの「マネジメントコミッティ」をつくりました 。これで少なくとも仕組みとしては、「そうか。そう仕事をすればいいのか」ということが、もう少し、はっきりと見えてきました。
(ゴーン体制で)やったことは、あとから考えてみると、比較的単純なことだと思うのですが、当時の日本人の目には「どこから手をつけていいか、なかなか見えてこなかった」ということではないでしょうか。
―― あとから見ると単純だけれど、実際に中の人から見ると分からなくて、いろいろ試行錯誤しながら、どんどん悪化していく。そのときに、ちょうどいいタイミングでゴーンさんが出てくるという。
西川 そうだと思います。
―― そうですね。深刻な反省はしていたけれども、自分たちはどうしていいかわからないという、ちょうどいいタイミングだったわけですね。
西川 ですから、「その力をある方向に持っていけば絶対にすぐ回復するはずだ」という確信は、相当早い段階で持ったのではないでしょうか。
―― そうでしょうね。やはりそれだけ苦しんできたからですよね。
西川 そうだと思いますね。日産の場合は、海外投資は非常に早かったです。その分、他の皆さんより先へ行かなくてはならなかったのですが、逆になってしまった。収益がこうなって(下降して)しまったということですから、そのキャッチアップがかなりのスピードで進んだということでしょうね。
●分かりやすい共通の定義で、分かりやすい共通の目標を設定する
―― (ゴーン体制では)クロスファンクショナルチーム(Cross Fuctional Team: 経営課題を解決するため、部門や役職を横断して人材を集めて構成されるチーム) をつくってから、リバイバルプラン(日産リバイバルプラン: NRP)の発表まで、ものすごい速さですよね。最初に面談をして、クロスファンクショナルチームを選んで、リバイバルプランに持っていくまでを、半年くらいの時間軸で行く。しかも削ぎ落として削ぎ落として、ものすごくシンプルなかたちにしていく。あそこが、経営者のある種の技法なのでしょうか。
西川 技法というか、いろいろと抱えている状況には、やはりいろいろな要素が絡んでいて、皆さん複雑です。一つのところをいじれば、こっちが悪くなる。なかなか複雑な状況を、一遍にすべて解消するのは難しい。
―― 現場が「機能」別になっていれば、なっているほど難しいですよね。
西川 普通はそういう状態ですね。それを、全部ではないけれど、ある部分ざっくりとやる。全部ではなく、まず「ここから行こう」ということで、「こういうかたちで仕事を進めれば、まず一歩進むだろう」というところです。おっしゃったように削ぎ落として、誰にも非常に分かりやすい「共通の定義」で、分かりやすい「共通の目標」を設定する ところから入ったということだと思います。
―― 「共通の定義」、「共通の目標」ですね。
西川 当時は収益管理ができていなかった。収益性が悪いということで、まずあらゆる意味でのコストダウンをしなくてはいけない。そのコストの測り方というか、コストダウンのあり方というか、何を目標にして、どうやってその成果を測っていくのかというようなところが、機能によって、あるいは地域によって、けっこうまちまちだったのです。
―― バラバラだったわけですね。
西川 ええ。発展の過程でいろいろ便利なものをつくっていたということになると思うのですけれども、結局それでやっていると、誰が何をやっているかよく分からない。そこで、「共通の定義」をつくる、その定義の下で「目標」をつくって、そこに向かって仕事をしましょうということですね。
とくに最初、第一ステップとして、既にもうグローバル展開はしていましたので、そのなかで「どういうふうに、何の軸で、まずやるのか」といったときに、「グローバルな機能軸で、一貫性のある仕事と、その目標を設定しよう」ということを狙ったのが、たぶん彼(ゴーン氏)の最初のステップの狙いだと思うのです。
彼は社長で、私は当時、部長でしたから、ずいぶん距離がありましたけれど、恐らくそういう狙いで仕事を進めて、まず機能別に、グローバルにヨコ串を通してみた ときにかなりバラバラである。そこをまず機能軸を通すことによって、全体の効率を上げることを大きく狙った と思う。
本来でいうと、ヨコ軸の機能軸と各地域の事業軸は、かなり「マトリクス(matrix: 複数の異なる組織が入り組んだ多元的な構造) 」になっているのですが、最初のリバイバルの段階では「ヨコ軸をちゃんと通そう」とい...