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●従来のパターンで達成できなかった目標レベルをどう設定するか
西川 (改革の方法は)非常にシンプルに見えますけれども、これを回すためには、それなりのリーダーが、それなりの数、必要になります。
―― これはけっこう難しいですね。
西川 たとえば開発のなかでも、開発のことだけが分かっているわけではなく、開発と他の機能や地域がからんできても、きちんと仕事をマネージできる人がいなくてはいけない。皆さんがそういうことをやっているのだから、営業のほうも営業だけで動いていいわけではない。そういう司(つかさ)、司に、「お互いクロスファンクションして仕事をしていくんだ」「こういうマトリクスでやっていくんだ」と理解しているリーダーが必要です。
そうはいっても、初期には「俺の仕事のしかたはこうだ」「俺のしかたはこうだ」ということがあります。そうした我流のところでゴタゴタしないようにするには、従来のパターンで達成できなかった目標レベルをどう設定するか。これはストレッチが過ぎてはいけないのですが、皆さんで協力しなければできないレベルにする。
開発なら開発、生産なら生産、購買なら購買。それぞれがやっているのではなく、皆さんが協力をしなければ達成できないレベルのコスト競争力、あるいは営業と商品が一緒にならなければ作りきれない商品力などです。単一グループで行っているものに対して、もう1つ上を行く目標を持って仕事をするというのが、仕事を整斉(せいせい)と回す上で非常に大事だったのではないかという気がします。
―― 確かにそれがないと、なかなか上がらないですよね。
西川 上がりませんね。
―― クロスファンクションでの目標にしないと、上がらないですよね。
●「もめる方向」から「共同で知恵を出す方向」へ
西川 当時は、ルノーと日産で一緒に仕事をしようとし始めていました。そうするとやはりルノー流と日産流があって、「こっちがいい」「いや、こっちがいい」というのがあるのです。
―― 芸風が違いますよね、元々。
西川 ええ。それは、それぞれのいいところを取ればいいと思うのですが、結果として「より高いところ」を狙う。日産のパフォーマンスも上がるし、ルノーのパフォーマンスも上がるようなところに目標を設定すると、簡単な言い方ですが「もめている場合ではない」となってくる。要するにお互いに知恵を出して、どうすればさらによくなるか。もめる方向から、共同して知恵を出す方向に力を持っていくところが、一つのマネジメントのポイントであったのだろうと思います。
クロスファンクショナルというところでも、マトリクス運営というなかでもそうです。至る所にそういうチャレンジなり仕掛けがあると、協力してクロスファンクショナルに全体を俯瞰して、機能別に持っているエクスパティーズ(expertise: 専門知識・技術、ノウハウ)を使って一つ先を行くというようなことを仕掛けて進めていたということになると思うのです。
―― その目標を設定する人の頃合いは、すごく難しいですね。
西川 これは難しいのではないですかね。
―― 低すぎるとなかなか一緒にならないし、高すぎると諦めてしまう。
西川 これはもう本当にリーダーの資質だと思います。難しいですね。どういう線で設定するかは非常に難しいですし、ストレッチが過ぎると弊害が起きます。トライ・アンド・エラーで勘所を養っていく以外ないのではないかと思います。
―― 日産の場合、そのトライ・アンド・エラーをものすごく早回しでやったわけですね。
西川 そうです。早回しでやって、経験則として、リーダーの一つの資質に定着していけばいいのですよ。人材のところで少しお話しできればと思いますが、そういうことを若い頃から経験してきた人はあまり多くなかった。そこが一つポイントだったと思います。
―― こうして「リバイバルプラン」を行うことによって、経験する人の量と質が圧倒的に増え、よくなったわけですよね。
西川 「何を仕事と思うか」というところが、だいぶ変わったと感じます。もちろん日産が持っている技術力というものは、「技術の日産」として脈々と伝承され、磨かれて、今に至っているわけですけれども、経営のあり方自体は、かなり様変わりをした。どういうところに時間を使うか、何が大変なのか、というところでですね。
ファンクションごとに一生懸命やって、他のファンクションともめたり意見を通したりするということではない。先ほど申し上げた通り、協力して、さらにストレッチをして、いい結果を出すためにどうすればいいのか。ここに時間を使うということです。それをうまくまとめていく仕事が、より上級者に求められるような状況になり、従来とは仕事の様子がだいぶ変わったという感じがします。


