●「議論と雑談」の両方を大事にする
―― これまでの議論を受けて、(ウェビナーを)お聞きいただいていた皆さまからいろいろ質問をお寄せいただいています。なるべく多く質問を選びたいと思うので、少し手短にお答えいただければと思います。まず最初の質問です。
「多様性が重んじられた議論やビジネスの世界で見直されている雑談が大切ということでしょうか」
多様性の時代ということなので、先ほど議論のお話もありましたが、今後のことを考えると「議論の他にも雑談的なもの──先ほどのティーパーティーのような話になるのかもしれないですが──これが今後大切だということでしょうかというご質問ですが、こちらについてはいかがでしょうか。
長谷川 「議論と雑談」は意義が違うと思いますが、両方大事です。議論については、ダイバーシティを本当に突き詰めていくと、大きなコストがかかることになります。議論というのは力がいるし、疲れるし、本当に大変なことです。だけど、それをしないよりもしたほうが絶対にみんなの満足度は増えるし、よい結果を生むと思われるので、議論は絶対にしたほうがいい。
一方、雑談のほうは、ふと思いがけず、いろいろなところとのつながりや、何かの知識が得られます。一見無駄なことに見えて(「もっと邁進しなさい」といわれるような環境では「雑談などするな」となりますが)、実は厚みのあることだと思います。
小宮山 オンラインで欠けているのは雑談かもしれません。
長谷川 そうだと思います。オンラインでは、そこでつながっている人ではない、例えばこの人(となりの人)とだけコソコソとか、そういう雑談がない。それは(雑談も大事という意味で)足を引っ張りますね。
―― 職場でも、意外と雑談のようなことから始めたほうが(議論は)早く進むというところがありますからね。
長谷川 あります。
小宮山 今の分類でいうと、雑談が議論になることもありますね。
―― 確かにそうですね。やはりそういうところを日本としてどう形づくっていくかというところですね。先ほど、ティーパーティーに誰も来なかったという話もありましたが、それをやっていかなければいけないのだろうと思います。
●前提やビジョンが違う人との議論のきっかけ
―― また別の質問にまいります。
「前提やビジョンが異なっていると、同じ集団(マンション、自治会、町内会、会社、自治体、国家など幅広く)でも互いに会話が成り立たない。切羽詰まった問題でないと、わざわざ時間を使おうとも思わないので、前提を議論する場も気力もない。問題意識を持っている人と別にこのままでよいと思っている人、学習させられた無気力感を抱えている人も多いと思いますが、議論できるきっかけをつくるにはどうしたらよいのでしょうか」
これはまた少し難しい問題です。
小宮山 私は東大退官後、「プラチナ構想ネットワーク」に携わって地方の問題に取り組んでいます。そこで出会うのは、今おっしゃったような問題ばかりです。これについては、地道に仲間をつくって進めていく以外にはないだろうと思います。それが「勉強」ということなのでしょう。
私はよく「これからはメダカの学校だ」と言っています。最近は、アメリカのほうの議論でもいろいろ問題が多いと聞きます。例えば、シカゴでの人種差別や、「Black Lives Matter」(BLM運動)など、彼らにとっては大変な問題などが出ています。われわれにとっては(黒人の命が重要なのは)当たり前のことだと思うのに、それをどうしていくのかについて、答えはありません。
ただ、新たに出てきた提案として「High-Impact Coalition(ハイインパクト連合体)」で取り組もうと言われています。影響力のある人たちによる連合という意味ですが、問題の大小を問わず、影響力のある人たちが“ゆるいルールで動く”ということです。今はみながミッションの共有ということで動いていますが、「ミッションはみんなで、ルールはゆるめ」というのが一つの方法です。さらに、もう一つ重要なのは“信頼感の醸成”で、ルールとしては「信頼感の醸成の速度に応じて展開する」ということを言っています。
これは私たちが今「プラチナ構想ネットワーク」として、地方でいろいろな問題と取り組む状況そのものです。結局、信頼感が醸成されないとうまくいかないので、長くやるより仕方がないのではないでしょうか。
●最初の人は大変だが、仲間がいれば大きく動かす力になる
―― あとは、「みんなでやらねばならない」とか「みんなでやりましょう」ではなく、まずは「気の合う人とやる」「問題意識を共有している人とやる」など、できるところからスタートを切ることかと思います。
長谷川 そうですね。
小宮山 そうそう。やはり10人の組織でも1人がやる...