●いざとなったときに命を捧げるということ
―― 先生の前回(「反生命論」)の講義の中で、家柄と血筋による教育の話が出てきました。
執行 『源氏物語』に出てきました。
―― すごいと思います。
執行 そうならない限り、もう立ち直りません。それが、わかるかわからないかです。もうそういうところに来ています。財務官僚は頭がいいに決まっています。頭がいいとは「勉強ができる」ということです。でも、勉強ができる人間がダメということは、古典に全部書かれています。
『源氏物語』の「乙女」の巻の最初に、大和魂の話が出てきます。光源氏とお母さんが、それで大ゲンカする場面です。
―― 大ゲンカをする。
執行 光源氏は、庶民の人気を取るための主人公だから、「教育が必要」と説くのです。お母さんは古い人だから、「人間が大和魂を持っているかどうかは、血統と家柄と小さい頃の教育による」という話を喧々諤々でやるのです。
―― 血統と家柄と小さい頃の家庭教育ですね。
執行 そうです。『源氏物語』に描かれているのは、「反生命論」でも言ったように、いざとなったときに天皇や国家、日本のために命を捧げられるかどうかです。それを持っている人を「大和魂がある」というのです。
だから、当時は天皇家に近い公家や、家柄のいい藤原とか、近衛といった人たちは、それは多いわけです。普段は女遊びしかしない。
―― 酒と女と。
執行 飲んだくれて、遊んでいる。では当時の人たちがなぜ公家を崇拝していたかというと、いざとなったときに国のため、天皇のために命を投げ出せると思っていたからです。公家だって、源平が台頭する鎌倉時代くらいまで、ふだんは雅な生活をしているけれど、いざ海賊が来たら、兵隊を引き連れて海岸まで討伐に行きました。そういうところで、庶民はみんな尊敬していた。「いざとなれば、あの人たちは天皇と国のために立ち上がってくれる」と。
―― 「大和魂を持っている」と。
執行 それを大和魂というのです。そこで、一番大きい問題は「漢才(カラザエ)」、つまり能力、勉強です。
勉強の力は、「ざえ」。『源氏物語』には、そう書かれています。
―― 才能の「才」ですね。
執行 才はいくらやっても、いざというときは自分のことしかないということです。
―― なるほど。
執行 だから家族もダメ。もちろん国もダメ。天皇...