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DATE/ 2017.04.06

進化する最近のAIは一体どこがスゴイのか?

昨今のAIブームは「本物」か

 鉄腕アトムやドラえもんなど、日本には高い知能を備えたロボットが活躍したり、友だちになったりするアニメや漫画が多く存在します。見ようによっては、日本人はロボットやAI(人工知能)との共生を、どの国よりも強く夢見てきたといえるでしょう。

 そして最近、巷では、AIをめぐるニュースがとても増えています。電話対応や書類作成、保険適用の判断すらAIでやろうとする企業も出ている一方、コンピューターに雇用を奪われるのではないか、今の子どもたちの多くは、まだ存在しない未知の職業に就くのではないかという憶測が広がっています。実際のところ、AI技術はどの程度発達しているのでしょうか。日本のAI研究をリードする東京大学大学院工学系研究科特任准教授の松尾豊氏が、昨今のAI技術について聞いてみました。

 松尾氏によれば、60年前に始まったAI研究は今回で3回目のブームを迎えているとのことです。過去の2回とも大いに期待されたのですが、いずれも期待通りにはいきませんでした。そのため今回のブームでも、過度の期待は禁物だと松尾氏は言います。しかし同時に、今回のブームはこれまでと少し様相が異なっているとも言います。そのポイントは、AIを支えるディープラーニングという技術の開発です。

大いなる可能性を秘めたディープラーニング

 ディープラーニング(深層学習)とは、大量の画像データをコンピューターに与えて処理させ、その画像にある対象(モノや人、動物など)の「特徴量」を自分で学習させる方法です。

 通常、コンピューターに処理をさせる場合、「これは犬の画像」「これは猫の画像」と、その画像が何であるかを人間が教えたり、あるいは「犬とは◯◯の特徴がある」といった定義を与えたりしなければなりません。ところがこのやり方だと、あらかじめ入力する情報が膨大すぎたり、曖昧な対象をうまく処理できなかったりといった問題を抱えていました。ディープラーニングは、そうした問題点を克服できる技術です。

 このディープラーニングという技術を使ってコンピューターに自己学習をさせれば、AIはランダムな画像の中から「これは犬」「これは飛行機」「これはオレンジ」など自動的に判断するようになります。つまり、コンピューター自身が画像を「認識」できるようになるのです。

 松尾氏によれば、ディープラーニングは画像認識の分野で飛躍的な発展を遂げており、2015年には、AIが画像認識のテストで人間の精度を超えたそうです。画像認識という領域に限れば、コンピューターが人間を凌駕したことになります。

現在のAIは3歳児に近づいた

 さらにこの「認識」能力は、他のところにも応用可能です。例えば、AIにブロック崩しのゲームをやらせると、最初は失敗ばかりしていたものが、やがてゲームの「コツ」を見つけていきます。つまり、AIが自ら「コツ」を認識して、勝手に上達していくのです。

 同じように、ディープラーニングをするAIとロボットアームを組み合わせれば、積み木遊びやおもちゃの組み立てだって可能になります。最初は落としてばかりでうまくできませんが、徐々に積み木やおもちゃの形状に合わせた掴み方を学んでいくのです。さらに、これまで難しいとされてきた言語の翻訳や、画像から文を生成する技術なども開発されています。

 積み木を組み立てたり、画像を認識するという作業は、3歳児でもできることなのですが、実は今までのAI技術ではとても難しいことだったのです。もっぱらチェスや将棋で人間に勝つかどうかが話題になるAIですが、このように柔軟に環境に対応し、3歳児並みに自ら上達できるようになっていることの方が、進化としては本質的なものなのです。

そしてAIは「目」を持った

 松尾氏は、こうしたディープラーニングの登場を、生物進化上の「カンブリア爆発」になぞらえています。カンブリア紀の生物は、目を持つことで様々な生存戦略を取るようになり、爆発的に多様性が増えました。それと同様に、ディープラーニングによって、AIも「目」を持つようになったのです。

 AIが「目」を持つとは、単にカメラを搭載するようになったということではありません。そのカメラから入ってきた画像を、コンピューター自身が処理し、機械が人間のように「見える」力を身につけたことを意味します。ディープラーニングによって、AIの可能性はまさに飛躍的に高まったのです。

 これまで日本人が夢見てきたように、AIを搭載したロボットと友だちになれる日は近い、かもしれません。

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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授