社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
進化する最近のAIは一体どこがスゴイのか?
昨今のAIブームは「本物」か
鉄腕アトムやドラえもんなど、日本には高い知能を備えたロボットが活躍したり、友だちになったりするアニメや漫画が多く存在します。見ようによっては、日本人はロボットやAI(人工知能)との共生を、どの国よりも強く夢見てきたといえるでしょう。そして最近、巷では、AIをめぐるニュースがとても増えています。電話対応や書類作成、保険適用の判断すらAIでやろうとする企業も出ている一方、コンピューターに雇用を奪われるのではないか、今の子どもたちの多くは、まだ存在しない未知の職業に就くのではないかという憶測が広がっています。実際のところ、AI技術はどの程度発達しているのでしょうか。日本のAI研究をリードする東京大学大学院工学系研究科特任准教授の松尾豊氏が、昨今のAI技術について聞いてみました。
松尾氏によれば、60年前に始まったAI研究は今回で3回目のブームを迎えているとのことです。過去の2回とも大いに期待されたのですが、いずれも期待通りにはいきませんでした。そのため今回のブームでも、過度の期待は禁物だと松尾氏は言います。しかし同時に、今回のブームはこれまでと少し様相が異なっているとも言います。そのポイントは、AIを支えるディープラーニングという技術の開発です。
大いなる可能性を秘めたディープラーニング
ディープラーニング(深層学習)とは、大量の画像データをコンピューターに与えて処理させ、その画像にある対象(モノや人、動物など)の「特徴量」を自分で学習させる方法です。通常、コンピューターに処理をさせる場合、「これは犬の画像」「これは猫の画像」と、その画像が何であるかを人間が教えたり、あるいは「犬とは◯◯の特徴がある」といった定義を与えたりしなければなりません。ところがこのやり方だと、あらかじめ入力する情報が膨大すぎたり、曖昧な対象をうまく処理できなかったりといった問題を抱えていました。ディープラーニングは、そうした問題点を克服できる技術です。
このディープラーニングという技術を使ってコンピューターに自己学習をさせれば、AIはランダムな画像の中から「これは犬」「これは飛行機」「これはオレンジ」など自動的に判断するようになります。つまり、コンピューター自身が画像を「認識」できるようになるのです。
松尾氏によれば、ディープラーニングは画像認識の分野で飛躍的な発展を遂げており、2015年には、AIが画像認識のテストで人間の精度を超えたそうです。画像認識という領域に限れば、コンピューターが人間を凌駕したことになります。
現在のAIは3歳児に近づいた
さらにこの「認識」能力は、他のところにも応用可能です。例えば、AIにブロック崩しのゲームをやらせると、最初は失敗ばかりしていたものが、やがてゲームの「コツ」を見つけていきます。つまり、AIが自ら「コツ」を認識して、勝手に上達していくのです。同じように、ディープラーニングをするAIとロボットアームを組み合わせれば、積み木遊びやおもちゃの組み立てだって可能になります。最初は落としてばかりでうまくできませんが、徐々に積み木やおもちゃの形状に合わせた掴み方を学んでいくのです。さらに、これまで難しいとされてきた言語の翻訳や、画像から文を生成する技術なども開発されています。
積み木を組み立てたり、画像を認識するという作業は、3歳児でもできることなのですが、実は今までのAI技術ではとても難しいことだったのです。もっぱらチェスや将棋で人間に勝つかどうかが話題になるAIですが、このように柔軟に環境に対応し、3歳児並みに自ら上達できるようになっていることの方が、進化としては本質的なものなのです。
そしてAIは「目」を持った
松尾氏は、こうしたディープラーニングの登場を、生物進化上の「カンブリア爆発」になぞらえています。カンブリア紀の生物は、目を持つことで様々な生存戦略を取るようになり、爆発的に多様性が増えました。それと同様に、ディープラーニングによって、AIも「目」を持つようになったのです。AIが「目」を持つとは、単にカメラを搭載するようになったということではありません。そのカメラから入ってきた画像を、コンピューター自身が処理し、機械が人間のように「見える」力を身につけたことを意味します。ディープラーニングによって、AIの可能性はまさに飛躍的に高まったのです。
これまで日本人が夢見てきたように、AIを搭載したロボットと友だちになれる日は近い、かもしれません。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
「50億人を救う」と宣言したゲイツとの粋なエピソード
内側から見たアメリカと日本(3)ビル・ゲイツの世界戦略
ラストベルトはアメリカの経営者により生まれたが、それは決して攻撃ではなく、合理的な経営判断による必然的なりゆきだった。その一例として島田氏は、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が中国でスピーチした光景を思い出す。世...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/17
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13
図書館の便利な活用法…全国の図書館からの「お取り寄せ」
歴史の探り方、活かし方(2)図書館「レファレンス」の活用
公共図書館では質の高い「レファレンス」サービスを提供しているが、活用する人は限られている。だが、実は全国の図書館ネットワークを縦横無尽に活用できる、驚くほどに便利な仕組みなのだ。今回は図書館のレファレンスで何が...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/15


