社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
「目」を持つ機械が日本にビジネスチャンスをもたらす
最近話題のディープラーニング(深層学習)。これを「眼の誕生」であると言い切るのは、東京大学大学院特任准教授・松尾豊氏です。人工知能のトップランナーとも呼ばれる松尾氏は、どのような意味合いで、このメタファーを使うのでしょうか。そもそも「眼の誕生」とは何なのでしょう。ご本人のレクチャーから探ってみました。
同様のことが機械やロボットの分野でも起こっているとするのが、松尾説です。今までの機械やロボットには「目」がなかったため、限られた動作しかこなせなかった。「目」を持つことにより、機械自身が状況を見ながら判断して動作することができるというのです。
目といえばカメラを連想する人も多いでしょうが、カメラは所詮「網膜」にすぎず、網膜に映った画像を処理する「視覚野」があって初めて、「見える」機能を備える。それに相当するのが深層学習ということになります。
例えば、2015年の国際ロボット展に初めて登場したのが、複数のメーカーによる「トマト収穫ロボ」でした。トマト収穫を自動化するには、「熟度を見極める」「傷をつけずに摘み取る」の二つが非常に重要です。深層学習により高い「画像認識」と「摘み取り動作」に習熟したロボットであれば、これらはいともたやすくなるのです。
また、建設現場では「溶接」が機械化できない作業とされてきましたが、溶接面の状態を見ながら作業することで、解決に向かいます。食品加工については、調理全般に「目」が必要なのはお分かりでしょう。また、隙間的な作業、例えば汚れたお皿を仕分けして食洗機に入れる動作を請け負う機械があれば、外食産業のバックヤードは大いに効率化されます。
トマト収穫ロボットは、単に収穫するだけでなく、病気かどうかの判断もできるようになるでしょう。水が足りなければ水をやり、肥料が足りなければ施肥をするなど、トマト畑全体をマネジメントできるようになっていくのです。
建設用の溶接ロボットも、溶接が終わった機器のチェックを手始めに、鉄筋を組む、コンクリートを入れるなどの作業を次々に自動化して、建設現場そのものを管理できるように育てることができます。
食品加工も同様で、食器の管理から食材の管理、調理まで、トータルなお店マネジメントができる。それらを「プラットフォーム化」と呼ぶのです。
今の消費者が海外の産品に満足できていないのは、海の向こうで行われている管理に一抹の不安を覚えているのが大きな原因。これまでは、その違い自体を「日本の強み」と考えて囲い込む方向に戦略をとりがちでしたが、「目」を持つ機械の市場投入は、さらに大きな明日につながる戦略となる可能性を持っています。
例えば水やりから施肥や収穫まで、日本の高度で繊細な農業ノウハウそのものを機械化したパッケージとして諸外国に輸出することができるようになれば、未来はどれだけ豊かになるでしょうか。ガラパゴス化する日本がいいのか、カンブリア紀の先駆けとなるのか。今の私たちに選択のチャンスがあります。
カンブリア紀の「眼の誕生」とAIの関係とは?
『眼の誕生』とは、進化生物学者で古生物学者のアンドリュー・パーカー氏によって書かれた本のタイトルです。約5億4300万年前、生命最初の「眼」が生まれたことが、生物の爆発的な多様性増大につながったとするのが、著者の主張。進化史上の大きな謎とされてきた「カンブリア爆発」に対して、有眼生物の誕生による淘汰圧の高まりをあげた「光スイッチ説」が、その答えとなっています。同様のことが機械やロボットの分野でも起こっているとするのが、松尾説です。今までの機械やロボットには「目」がなかったため、限られた動作しかこなせなかった。「目」を持つことにより、機械自身が状況を見ながら判断して動作することができるというのです。
目といえばカメラを連想する人も多いでしょうが、カメラは所詮「網膜」にすぎず、網膜に映った画像を処理する「視覚野」があって初めて、「見える」機能を備える。それに相当するのが深層学習ということになります。
ロボットに「目」がつくと、どんな役に立つのか
松尾氏は、「目」のついたロボットが活躍する現場として、農業、建設、食品加工分野を挙げます。自然物を扱う領域では、一つひとつをいちいち見なければ、それぞれの状態が判断できず、それが自動化のネックとなってきただけに、大きな変化が見込めるのです。例えば、2015年の国際ロボット展に初めて登場したのが、複数のメーカーによる「トマト収穫ロボ」でした。トマト収穫を自動化するには、「熟度を見極める」「傷をつけずに摘み取る」の二つが非常に重要です。深層学習により高い「画像認識」と「摘み取り動作」に習熟したロボットであれば、これらはいともたやすくなるのです。
また、建設現場では「溶接」が機械化できない作業とされてきましたが、溶接面の状態を見ながら作業することで、解決に向かいます。食品加工については、調理全般に「目」が必要なのはお分かりでしょう。また、隙間的な作業、例えば汚れたお皿を仕分けして食洗機に入れる動作を請け負う機械があれば、外食産業のバックヤードは大いに効率化されます。
やがてはロボットが「現場」マネジャーになる日が来る
「目」によって状況判断ができるようになれば、これまで単機能だったロボットが、マルチタスクをこなすことができるようになる。これを松尾氏は「プラットフォーム化」と呼んでいます。トマト収穫ロボットは、単に収穫するだけでなく、病気かどうかの判断もできるようになるでしょう。水が足りなければ水をやり、肥料が足りなければ施肥をするなど、トマト畑全体をマネジメントできるようになっていくのです。
建設用の溶接ロボットも、溶接が終わった機器のチェックを手始めに、鉄筋を組む、コンクリートを入れるなどの作業を次々に自動化して、建設現場そのものを管理できるように育てることができます。
食品加工も同様で、食器の管理から食材の管理、調理まで、トータルなお店マネジメントができる。それらを「プラットフォーム化」と呼ぶのです。
ノウハウは囲い込みからシェアする未来が来ている
このあたりで「自分の仕事が奪われるのでは」と守りに入るのが、これまでの考え方。松尾氏は、プラットフォーム化のノウハウを海外展開することを考えています。今の消費者が海外の産品に満足できていないのは、海の向こうで行われている管理に一抹の不安を覚えているのが大きな原因。これまでは、その違い自体を「日本の強み」と考えて囲い込む方向に戦略をとりがちでしたが、「目」を持つ機械の市場投入は、さらに大きな明日につながる戦略となる可能性を持っています。
例えば水やりから施肥や収穫まで、日本の高度で繊細な農業ノウハウそのものを機械化したパッケージとして諸外国に輸出することができるようになれば、未来はどれだけ豊かになるでしょうか。ガラパゴス化する日本がいいのか、カンブリア紀の先駆けとなるのか。今の私たちに選択のチャンスがあります。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的
第2次トランプ政権の危険性と本質(2)トランプ関税のおかしな発想
「トランプ関税」といわれる関税政策を積極的に行う第二次トランプ政権だが、この政策によるショックから株価が乱高下している。この政策は二国間の貿易収支を問題視し、それを「損得」で判断してのものだが、そもそもその考え...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/17
大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本
デモクラシーの基盤とは何か(2)明治日本の惑溺と多元性
アメリカは民主主義の土壌が育まれていたが、日本はどうだったのだろうか。幕末の藩士たちはアメリカの建国の父たちに憧憬を抱いていた。そして、幕末から明治初期には雨後の筍のように、様々な政治結社も登場した。明治日本は...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/05/16
【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?
編集部ラジオ2025(8)会員アンケート企画:トランプ関税
会員の皆さまからお寄せいただいたご意見を元に考え、テンミニッツTVの講義をつないでいく「会員アンケート企画」。今回は、「トランプ関税をどう考える?」というテーマでご意見をいただきました。
第2次トランプ...
第2次トランプ...
収録日:2025/05/07
追加日:2025/05/15
相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城
世界を混乱させるトランプ関税攻勢の狙い(1)「相互関税」とは何か?
トランプ大統領は、2025年4月2日(アメリカ時間)に貿易相手国に「相互関税」を課すと発表し、「解放の日」だと唱えた。しかし、「相互関税」の考え方は、まったくよくわからないのが実状だ。はたして、トランプ大統領がめざす...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/04/10
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24