テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.11.22

無印良品が海外でなぜ人気なのか?

「良品計画」V字回復の秘密

 どこの家庭にも1つや2つは「無印良品」の商品があるのではないか。そう思わせるほど定番アイテムとして私たちの生活に根をおろしている無印良品を展開するのが株式会社 良品計画です。1979年の設立以来、シンプルで飽きのこないデザイン、品質にも信頼がおける「良品」をリーズナブルな価格で提供し続けてきました。今や無印良品、MUJIの店舗数は国内外合計で870店舗、そのうち、海外店舗は418店舗、海外の展開地域はアジア、欧米、中東に広がり26ヶ国という押しも押されぬグローバル企業ですが、実はこの良品計画も2001年頃は赤字で苦しんでいました。

 この状況を、2001年いわば良品計画が最悪であった時期に社長に就任した松井忠三氏が見事にV字回復させました。その回復劇成功の秘密は、松井氏の著書『無印良品は仕組みが9割』のタイトルが示す通り、無印良品独自の仕組み「MUJIGRAM」にある、と明かすのは産業戦略研究所代表の村上輝康氏です。

 村上氏はサービスの世界に科学的、工学的アプローチを導入しサービスイノベーションを推進するサービソロジーの第一人者。このサービソロジーの理論を実践することで、サービス提供者の経験価値創造と利用者の利用価値創造が相互に関係して、かつ、満足度評価、学習度評価が適切に行われることで両者の間にサイクルが作られ、持続可能なサービスイノベーションにレベルアップしていくわけです。

「生きた」マニュアル・MUJIGRAM

 そのサービスイノベーションのプロセスにおいては、知識やスキルが確実に蓄積されて、次のアクションに活用されることが重要なのですが、村上氏は今回その蓄積のノウハウとして、MUJIGRAMに着目しました。MUJIGRAMは一言でいえば、販売オペレーションマニュアルで、現場での作業を働く人の視点から13のカテゴリーに分割し、計13冊、トータル2000ページほどにまとめたものです。マニュアルというと、「分厚いファイル」「本棚の隅にでん!と鎮座している」というイメージがありますが、このMUJIGRAMは日々現場で活用されている「生きたマニュアル」だと村上氏は語ります。

 MUJIGRAMが「生きた」マニュアルである第一の理由は、一度作って終わりではなく、現場から上がってくる改善提案をどんどん取り入れ、更新していく点にあります。毎月10件以上の改善提案が上がってくるとのことですが、このような提案はすべて、店頭でお客さまに直接接するスタッフが顧客視点で得た経験価値を学習成果として店舗のサービスに還元させていくもの。こうして、新しい知識・スキルがハイペースで蓄積され、マニュアルの中に一元化されていくのです。こう聞くと、「生きた」マニュアルとは「育てる」ものなのだとも言えそうです。

「見える化」がグローバルな成長に貢献

 さらに、堅苦しい管理用語を並べるのを止めて、グラフや画像などを積極的に活用しているのも、マニュアルが生きている、生かされている理由の一つ。マニュアルという堅苦しいイメージを払しょくし、誰もが手に取りやすく分かりやすいものとなっており、外国人や新人スタッフでも直観的に理解できるようになっているのだそうです。
 
 「知識やスキルの見える化」を可能にしたマニュアルがあることで、無印良品では日々のアイディアを世界中の店舗でほぼリアルタイムで共有できるようになっており、村上氏はこのMUJIGRAMが良品計画のグローバルな成長に大きく貢献していると言います。

「変えられる」からこそ生きてくる

 さて、ここまで完璧なマニュアルがあると、「そればかりに頼りっきりになってしまうのではないか」という懸念も生まれてきますが、MUJIGRAMはあくまでも店舗運営のベース部分に関するもの。「こうしてはいけない」「それはだめ」と、書かれている以上のことをしてはいけないと禁じる規則書ではありません。MUJIGRAMで皆がベース部分を確認し、そのうえで「こうするともっとよくなるのではないか」という創意工夫が非常にしやすい仕組みでもあるそうです。

 村上氏によると、当初の13に分割されたMUJIGRAMはファイルの冊数こそ変わらないものの、全体の枠組みは柔軟に変化させ、より現場に則した体系に変化しているのだとか。マニュアルというと、一度出来上がったらおいそれとは変わらないもの、変えられないものといったイメージがありますが、このMUJIGRAMのように「変わっていく」ことこそ、知識やスキルを蓄積し、生かしていくマニュアルの鉄則なのかもしれません。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム

「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長
2

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発

日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
3

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉

現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
4

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家

数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
5

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性

なぜモンゴルがあれほど大きな帝国を築くことができたのか。小さな部族出身のチンギス・ハーンは遊牧民の部族長たちに推されて、1206年にモンゴル帝国を建国する。その理由としていえるのは、チンギス・ハーンの圧倒的なカリス...
収録日:2022/10/05
追加日:2023/01/07
宮脇淳子
公益財団法人東洋文庫研究員