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学費に数千万円かけても3割が歯科医になれない理由
最近どこにいってもコンビニだらけ、そんな声が聞かれるこのごろですが、実はコンビニより多いところをご存じですか?
答えは歯科医院、歯医者さんです。2017年時点で、国内の歯科医院件数は、厚生労働省の調査によれば68,872件になります。日本フランチャイズチェーン協会の統計では、コンビニの数は55,341件となっていますので、およそ13,000件も歯科医院の方が多いのです。
ところが、歯科医になるために不可欠な国家試験の合格率は低迷化しており、かつて憧れだった職業を取り巻く状況が年々厳しくなってきているといいます。いったいどういうことなのでしょうか。
低迷の背景には、増え過ぎた歯科医師の数を抑制しようとする国の政策があります。歯科医院過剰になるという予測は80年代から危惧されていました。文部科学省は定員人数の削減を打ち出してきましたが、私大では定員数の低下が経営の圧迫につながる恐れもあり、進んでいないのが現状です。そこで厚労省は、国家試験の合格基準を引き上げることで対応、その結果が合格率の低下です。
しかし、数千万もの学費を払ったのに、肝心の国家試験に合格できないのでは目も当てられません。その上、供給過剰により競争が激化した結果、経営が厳しくなり続けられなくなるという歯科医院も少なくないとか……。そのような現状から歯科医を志す若者が減り、定員割れしている私大も現れています。志願者の精査もできず、やがて歯科医全体の質の低下につながると、悪循環を危惧する声も上がっているようです。
というのも、ハンドピースそのものが高価な精密機械なので、患者ごとに交換できる数を揃えているとそれだけ費用がかさむことになります。滅菌のための蒸気発生装置などは100万円以上するうえに、ハンドピースの劣化につながるのではとあまり使いたくないという歯科医院もあるとか……。
また、歯の根の治療技術は近年格段に進歩しているにもかかわらず、保険内報酬よりも材料費のほうが高く、最新治療を施せば赤字になってしまうというような現実があります。経営を維持するためには保険外診療が不可欠で、そのための設備や技術を身につけるにもお金がかかり、そこに維持費や人件費などが加算してどんどん収入が削られてゆく……。医療費も価格適正化をすべきとの声も上がっています。
5年ごとに厚生労働省が行っている調査によれば、平成26年度の無歯科医地区数は858地区、無歯科医地区人口は206,109人と記されています。数値だけを眺めた限りでは今ひとつわかりにくいのですが、実は歯科医過剰問題には、数値の中に地域格差の問題がくみとられていないとの指摘も出ています。
全国的に歯科大のある地域では歯科医院は過剰になる傾向にありますが、逆に人口は多くとも歯科大のない地域では数が足りておらず、このまま全体数を減らすと、地域によっては生活圏に歯科医院そのもがない場所が出てくる可能性も指摘されています。
1989年、日本医師会は厚生省とともに「8020(ハチマルニイマル)運動」、80歳になっても20本以上自分の歯を保とうというスローガンを掲げました。歳をとっても良い歯をキープし、食生活が楽しめるようにありたいというのは、多くの人の願いです。歯科医師界全体で、長期的な展望をひらいてゆくことが望まれています。
答えは歯科医院、歯医者さんです。2017年時点で、国内の歯科医院件数は、厚生労働省の調査によれば68,872件になります。日本フランチャイズチェーン協会の統計では、コンビニの数は55,341件となっていますので、およそ13,000件も歯科医院の方が多いのです。
ところが、歯科医になるために不可欠な国家試験の合格率は低迷化しており、かつて憧れだった職業を取り巻く状況が年々厳しくなってきているといいます。いったいどういうことなのでしょうか。
学費を数千万払ったのに3割が不合格…歯科医院が増えすぎたから!?
歯科医になるには歯科大もしくは医大の歯学部に6年間通った上で、歯科医師国家試験に合格する必要があります。一時期は受験者の90%以上が合格していましたが、この10年での合格率は約67%前後と低空飛行が続いています。つまり全体で3割が合格できないということです。さらに、新卒でのストレート合格はかろうじて50%を上回る程度で、私大に絞れば40%ほどいう厳しい数値です。低迷の背景には、増え過ぎた歯科医師の数を抑制しようとする国の政策があります。歯科医院過剰になるという予測は80年代から危惧されていました。文部科学省は定員人数の削減を打ち出してきましたが、私大では定員数の低下が経営の圧迫につながる恐れもあり、進んでいないのが現状です。そこで厚労省は、国家試験の合格基準を引き上げることで対応、その結果が合格率の低下です。
しかし、数千万もの学費を払ったのに、肝心の国家試験に合格できないのでは目も当てられません。その上、供給過剰により競争が激化した結果、経営が厳しくなり続けられなくなるという歯科医院も少なくないとか……。そのような現状から歯科医を志す若者が減り、定員割れしている私大も現れています。志願者の精査もできず、やがて歯科医全体の質の低下につながると、悪循環を危惧する声も上がっているようです。
最新治療を施せば赤字という現実
歯科医院の周辺問題として耳目に新しいのは、歯科医の半数がハンドピース(歯を削るドリルをつけるための柄の部分)や滅菌済み手袋を、患者ごとに交換していなかったというニュースではないでしょうか。院内感染に対する予防は、歯学部ではわりと最近から取り入れられたという事情もあるようですが、この問題は同時に費用の問題も浮き彫りにしていました。というのも、ハンドピースそのものが高価な精密機械なので、患者ごとに交換できる数を揃えているとそれだけ費用がかさむことになります。滅菌のための蒸気発生装置などは100万円以上するうえに、ハンドピースの劣化につながるのではとあまり使いたくないという歯科医院もあるとか……。
また、歯の根の治療技術は近年格段に進歩しているにもかかわらず、保険内報酬よりも材料費のほうが高く、最新治療を施せば赤字になってしまうというような現実があります。経営を維持するためには保険外診療が不可欠で、そのための設備や技術を身につけるにもお金がかかり、そこに維持費や人件費などが加算してどんどん収入が削られてゆく……。医療費も価格適正化をすべきとの声も上がっています。
本当に減らすだけで良いのか?
なんだか暗い話ばかりになってしまいましたが、現職の歯医者さんの声に訊いてみようと、スタッフの親類で開業歯科医の方に話を伺いました。すると、歯科医過多なのは都会の話で、歯医者の足りていない地域も結構あるとのこと。5年ごとに厚生労働省が行っている調査によれば、平成26年度の無歯科医地区数は858地区、無歯科医地区人口は206,109人と記されています。数値だけを眺めた限りでは今ひとつわかりにくいのですが、実は歯科医過剰問題には、数値の中に地域格差の問題がくみとられていないとの指摘も出ています。
全国的に歯科大のある地域では歯科医院は過剰になる傾向にありますが、逆に人口は多くとも歯科大のない地域では数が足りておらず、このまま全体数を減らすと、地域によっては生活圏に歯科医院そのもがない場所が出てくる可能性も指摘されています。
1989年、日本医師会は厚生省とともに「8020(ハチマルニイマル)運動」、80歳になっても20本以上自分の歯を保とうというスローガンを掲げました。歳をとっても良い歯をキープし、食生活が楽しめるようにありたいというのは、多くの人の願いです。歯科医師界全体で、長期的な展望をひらいてゆくことが望まれています。
<参考資料>
・『医療施設動態調査(平成29年1月末概数)』厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m17/is1701.html
・『平成26年度無医地区等調査及び無歯科医地区等調査の結果』厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000115612.html
・『コンビニエンスストア統計調査月報 2017年度10月』日本フランチャイズチェーン協会
http://www.jfa-fc.or.jp/particle/320.html
・『医療施設動態調査(平成29年1月末概数)』厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m17/is1701.html
・『平成26年度無医地区等調査及び無歯科医地区等調査の結果』厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000115612.html
・『コンビニエンスストア統計調査月報 2017年度10月』日本フランチャイズチェーン協会
http://www.jfa-fc.or.jp/particle/320.html
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