社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.02.02

いま増えている、給料「日払い」の仕組みとは?

 子どもが指折り数えて待つのはプレゼントのもらえる誕生日なら、大人が待つのは自分への御褒美が買える給料日でしょうか。生活費をやりくりし、給料日前の倹約モードを頑張れるのも、あと数日で一回リセット、リフレッシュできるぞと思えるからこそです。

 とはいえ給料日を待たずに、突然の出費に見舞われることもあるでしょう。懐かしい仲間から急な飲み会の誘い、親戚縁者や恩師の訃報、エアコンの故障やらスマホ落として修理代やら……思わず、1日分だけでも給料日払いでもらえたらなあ、なんて溜息がこぼれてしまう。そんなやりくりの日々の救いとなるのか、給与の日払いをできるようにする企業が出てきています。

正確には一部前払い

 日払いというと、アルバイトや派遣業務、現場を転々とする職人さんにはお馴染みの支払いスタイルです。1日働いて、その場で給料手渡し。経験したことのある人も少なくないのでは。

 それを企業の正社員でも可能にするところが出てきているのです。もっとも、月給制から日給制へと完全移行している、という話ではありません。月給の内から任意の日数分を前払いできる、給料日よりも先に一部を日払いで引き出せるということなのです。

 会社によっては6%前後の手数料がかかりますが、急に物入りになった人には好評のようです。また、社内ルールで前借りの限度額を決めているなど、使い過ぎて給料日に素寒貧みたいなことにならないようブレーキをかけているところもあります。

 経営側と従業員の間に、勤怠管理システムを提供する業者が入り、依頼した企業、もしくは業者の資金から前払いを可能にしているのが一般的です。

給料日前の救世主? それとも……

 そんな給料日払いシステム、従業員と経営者にとって、どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

 従業員から見れば前述したように、急な物入りに対応できるのはプラスですよね。貯金を切り崩したり、消費者金融のお世話になったりするのを防げます。システムによってはスマホで申し込めるところもありお手軽です。経営者側からすると、既に働いてもらったぶんの給料を前払いしているだけですので、持ち逃げトラブルなどのダメージは必然少なくなるでしょう。また、給料前払いシステムを取り入れている、福利厚生が厚いとイメージが良くなりやすく、人材確保が容易になり離職を防げるようになるというメリットもあるようです。

 逆にマイナス点を見るならば、従業員側はやはり手数料がかかってしまうことでしょう。場合によっては、前払いの内の数%はどうしても引かれてしまうことがあるとのこと。また、あまり頻繁に利用していると査定の際に良い印象を持たれないのではと、ちょっと気まずいかもしれませんね。経営側はシステム導入のための初期費用やセッティングなどの手間が挙げられます。さらに、スマホでの操作などがある場合は個人情報流出の恐れなど、セキリュティに関しても気をつけねばならなくなります。

法律的にはグレーなところも

 こうして並べてみると雇用者、被雇用者、両方に利便性はありそうですが、業者によっては法律的な危うさを指摘する声もあるそうです。

「前払いとは言っているけど、これって給料担保にした借金と同じでは?」

 給料前払いシスムは、2つの資金繰りパターンがあります。会社側があらかじめ前払い用資金をプールさせておいてそこから支払うものと、仲介業者が持っている資金から支払うものです。後者の場合、手数料という名の利息を取って、給料を担保に前借りをさせているのですから、貸金業と同じと見なされかねません。貸金業の登録なしに運営していれば違法と指摘される可能性が大です。

 給料の前借りできる分にかかる手数料を利息として考えた場合、給与ではなく金銭の貸付に当たってしまうのではないかという懸念があるのです。仮に「手数料」の6%が「利息」であったなら、法律上は1年間で72%の利息とみなされ、法廷の上限金利をオーバーしてしまいます。これでは消費者金融に借りなくて済むどころか、経営者公認の消費者金融がいるのと変わりません。いわゆる貧困ビジネスじゃないかと指摘する声も上がっています。また、給料が一部とはいえ、雇い主からではないところから支払われる、全額払いされないことなどは労基法に抵触する可能性もあると懸念されています。

 現段階で給料日払いシステムを評価するなら、グレーゾーンにあると言えそうです。給料の前借りをしなくてもよいように、喧伝される割にはまだまだ国民全体まで行き渡らない好景気を早く実感できるような世の中になって欲しいものです。

<参考サイト>
・NIKKEI STYLE:日払い給料、正社員にも広がる 思わぬ出費も安心
https://style.nikkei.com/article/DGXKZO24799430Z11C17A2NZBP00?channel=DF061020161183
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?

「何回説明しても伝わらない」「こちらの意図とまったく違うように理解されてしまった」……。そんなことは、日常茶飯事です。しかしだからといって、相手を責めるのは大間違いでは? いやむしろ、わが身を振り返って考えないと...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/13
2

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質

「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13
3

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム

初めて会った人なのになぜか好意を抱いてしまうことがある。だが、なぜそうした衝動が生じるのかは疑問である。デカルトが友人シャニュに宛てた「愛についての書簡」から話を起こし、愛をめぐる精神と身体の関係について論じる...
収録日:2018/09/27
追加日:2019/03/31
津崎良典
筑波大学人文社会系 教授
4

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解

アメリカの大転換はトランプ政権以前に起こっていた。1980~1990年代、情報機器と金融手法の発達、それに伴う法問題の煩雑化により、アメリカは「ラストベルト化」に向かう変貌を果たしていた。そこにトランプの誤解の背景があ...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/11