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DATE/ 2018.07.09

人間力を高める大前提は「弱さを認める素直さ」

 ビジネスの現場で必要なのは、聞く力や問う力だ、いや対話力も重要だ、などとよく言われますが、最も重要なのは総合的な人間力でしょう。経営コンサルタントの浜口直太氏の信条も「人間力を高める」であり、そのための努力を怠らないという点にあります。

人間力に最も必要な大前提とは

 その浜口氏が人間力をつけるために必要なポイントとして挙げるのは、たとえば、「人生は悪くて当たり前、とプラス思考で臨む」とか「感謝の心を忘れない」「明るく元気に大きな声で話す」など、一見単純に見えて、自分の考え方や行動の中心に常にすえようとすると実はつい忘れがちになってしまうようなことばかり。そして、浜口氏は自分で人間力を高めていくために最も重要な大前提は「世のため、人のために生きよう」と思い定めることだと言います。

 では、なぜ浜口氏がそう考えるようになったのでしょうか。

まず、出来ることから始める

 直接、「世のため、人のために生きることが人間力を高め、成功、幸せに導いてくれるものだ」と教えてくれたのは、浜口氏が大学卒業後アメリカに渡り大学院を目指して勉強している時に出会ったドイツ系アメリカ人のステファニー・テンジー氏。「世のためといっても何をしたらよいのか」と戸惑う浜口氏に「とにかく人の相談にのって励ましてあげなさい」とアドバイスをしたそうです。

 自分にどんな助言、激励ができるわけでもないけれどと思った浜口氏が、それでも行動に移したのが、バージニア州アーリントンにあるベトナム難民村に行き、戦災にみまわれた多くのベトナム人の話を聞くということでした。人々の話を聞くなかで、自分がいかに恵まれ、頑張ることのできる環境にいるかを自覚し、世のため人のために生きようという決意を固めることができたといいます。この決意を志の根本に置いたからこそ、世界最大の会計監査法人・会計事務所の採用面接を突破することができた、と浜口氏は当時を振り返ります。

もともとは筋金入りの劣等生だった

 こうして聞くと、「やはりうんと勉強して留学先で優秀な成績を修めるような人は、心がけが違う。そういう精鋭だから、自ら人間力をつけることができたのだろう」と思う人がいるかもしれません。

 しかし、この浜口氏、小さい頃から勉強ができない、自分には理解力がない、と悩み通しだったというから驚きです。暗記力も理解力も到底人に及ばない状態。同じ話を何度聞いてもなかなか理解できなくて、特に国語力に欠けるのが決定的な欠点だったそうです。大学を卒業するまで、教科書以外で読んだ本は『子鹿のバンビ』と『野口英世』の2冊だけ。しかもどちらも読了していないので、結末も知らずじまいというのですから、筋金入りです。世は偏差値教育真っ只中でもあり、非常に苦しい学校生活を送っていたそうです。

弱さを認める素直さが強さのもとになる

 そうした自分の存在意義すら見出せない毎日のなかで、出会ったのが松下幸之助氏の言葉。小学校中退ながら日本一の事業家になった松下幸之助の「人生で成功するために大事なことは、素直な心を持つことだ」という言葉に出会い、自分はどれほど素直だったかと反省したと浜口氏は言います。

 「素直であれ」という言葉が鍵となり、やがて到来するグローバル化時代に役立つ人間になりたいという気もちが芽生え、迷っていた大学進学を決意。一心不乱の勉強態度も評価され、無事大学卒業、そしてアメリカ留学を果たしたのだそうです。

 人間力をつける大前提は「世のため、人のために生きる」という強い意志ですが、その根本にあるのは、自分の欠点、弱点を素直に認め努力する力。弱さあってこその強さが、人間力養成には必要なのではないでしょうか。
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授