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DATE/ 2018.07.21

学びとは何か~自分探しよりも「学びの入り口」探しを

 人生100年時代といわれる今日、重要なのは「学びの入り口」だとするのは、専修大学文学部教授の貫成人氏です。貫氏は、哲学を身近なものとするため、授業のかたわら、さまざまな著書を執筆。2017年には哲学コミック『となりのカントくん』の原作も行っています。10MTVでも「西洋哲学史の10人」と題するシリーズ講義で、ソクラテスやプラトンに始まる10人の哲学者を紹介。一人ひとりの思想をかみ砕いて伝えるやさしさに定評があります。

「学びの入り口」はどこにでもある

 貫氏は、哲学の入り口が「身の周り」にあると確信するのは、哲学の祖であるソクラテスの方法がそうだからだ、と言います。

 現代人は「哲学」というだけで難しい本を読まなければならないと身構えてしまいますが、哲学のもともとの意味は、まだ手にしていない「未知の知」を愛するということ。つまり、名付けられていなかったり、定義されていなかったり、普遍化されていない考えに対して、「どうしても知りたい」とあこがれを強く持つことを言います。

 ソクラテスが求めたのも、「勇気」や「知識」など、毎日何度も使いながらも、一旦「それは何を意味しているのか」を問い出すとキリがなくなるような、身近にあることばや概念でした。そう考えると、「学びの入り口」はどこにでもあるのです。

「なんとなく好き」を哲学的な思索に変えていく

 貫氏のゼミでは、漫画好きの学生は漫画について、ロック音楽や落語の好きな学生は、ロック音楽や落語について、それぞれ材料を集め、調べ、考えを練り上げていくのだと言います。

 最初は「なんとなく好き」だったものが、調査して論文を書いていくなかで、漫画なら「アートとは何か」、ロックなら「音楽とは何か」、漫才なら「笑いとは何か」という哲学的な思考にまで高められ、深められていく。

 普段人が当たり前のように見ているものについて、今まで誰も気づかなかったことを発見するのは、まさに「学び」の醍醐味であり、知や哲学だけが与えてくれる深い喜びです。そこにたどり着くための基本は、まず「自分」であり、自分の生きている場所を掘り下げ、自分のやりたいことなどを考えることが重要だと貫氏は言います。

学びの入り口はどこにでも、先人の知恵は「てこ」にする

 入り口はどこにでもありますが、人と同じように見ているだけでは、学びに高めていくことはできないのも事実。たとえば漫画の例で言えば、古今の漫画を読んでいるうちに、どこかで「そもそも芸術とは何か」を調べるために、美学のさまざまな著作を読む必要とぶつかります。

 自分の関心から出てくる学びであれば、より深く、より身近に学ぶことができると貫氏。さらに、それを掘り下げていく過程で必要になるのが、先人の知恵です。彼らの考えたことを身につければ、それを「てこ」にして、自分の考えをさらに深めたり、高めたりしながら、全然考えてもいなかった方向に進めていくということができるからです。

 漫画を追求する学生が美学の本を読むように、自分の議論を鍛え、考えていくための武器やツールとして、「昔の哲学者が書いたものを使っていくことは極めて重要」と貫氏は言います。

 学びの入り口はどこにでも転がっていて、考え方や物の見方さえ身に付ければ、24時間365日哲学ができる、と貫氏。「学び」とは、やがて自分を発見し、現実の身の周りの在り方を発見する、そのための過程であり、結局は自分探しにもつながる王道であるようです。

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