社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.06.13

東京劣化!?スラム化する首都圏

 「地方消滅」という言葉を聞いたことのある人は多いだろう。少子高齢化と人口減少によって、近い将来、消えてなくなる市町村が出るかもしれないといわれており、地方自治体は危機感を強めている。現在、日本全国でさまざまな対策が打たれている最中だ。

このままだと、東京はスラム化する

 しかし、実は地方以上に劇的な人口問題を抱えているのは、ほかならぬ「首都・東京」だという説がある。そう主張するのは、日本の人口減少研究の第一人者・松谷明彦氏(政策研究大学院大学名誉教授)だ。

 松谷氏によれば、このままだと東京を中心とする首都圏はスラム化し、多くの高齢者難民と貧困層が生まれ、労働力が劣化し、世界の中流都市になり下がる可能性が高いという。にわかには信じられない話だが、松谷氏が多様なデータに基づいて推測した結論である。

原因は、高齢者だけが急激に増えること

 松谷氏は、死亡増の急増を主因とする地方の人口減少は、それほど悲観的な事態ではないと考えている。人口が減れば、財政規模も同時に縮小し、少なくとも財政難に陥る心配はないからだ。

 一方、東京とその周辺が問題なのは、人口がさほど減らないのに、高齢者だけは急激に増加することだ。そうなれば、当然、住民全体は貧しくなっていくだろう。

 高齢者が増えれば、福祉コストが増える一方で、労働者が減って税収が下がるから、首都圏自治体の財政は間違いなく悪化の一途を辿る。そこで年金が破綻すれば、都市のなかに「高齢者難民」が大量に出てしまうおそれが高い。

 そこまで劣化が進めば、もはや自治体も企業もインフラが維持できなくなる。放置された古いビルがそこら中に生まれ、東京がスラム化する可能性が十分にあるのだ。これは遠い未来の話ではなく、たった10年、20年先の東京の予想図である。

「東京は大丈夫」という慢心が危ない

 実は、地方消滅以上に、東京劣化がより大きな問題なのである。しかし、何となく「東京は大丈夫」と思っている人が多いのではないだろうか。慢心は危ない。いまから対策を講じる必要がある。

 東京劣化を防ぐために、松谷氏はいくつかの提案をしている。やむを得ない「福祉の切り下げ」、行政システムの簡素化、国民・住民の相互扶助による「小さな財政」の実現、「高齢者の生活コストの引き下げ」などだ。いまからこのような改革・工夫をしていけば、劣化を抑えることが可能だ。

 一方、東京が世界の情報拠点、国際都市であり続けるためには、外国企業を積極的に呼び込むことや、日本人が世界中に飛び出していき、世界各国で草の根的に活躍していくことも欠かせないという。世界に目を向ける努力を続ける必要があるのだ。いずれにしても、私たちはそろそろ、東京は大丈夫、東京はいつまでも国際都市であり続けるといった思い込みを捨てる時期に来ているようだ。

<参考文献>
・『東京劣化』(松谷明彦著 PHP研究所)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「私をお母さんと呼ばないで」…突然訪れた逆境の意味

「私をお母さんと呼ばないで」…突然訪れた逆境の意味

逆境に対峙する哲学(2)運命・世界・他者

西洋には逆境は神が与える運命という考え方があり、その運命をいかに克服するかを考えたのがストア派だった。しかし、神道が説くように「ヒトもカミ」であれば、それに気づく瞬間は逆境の中にこそ存在するはずである。「他者で...
収録日:2025/07/24
追加日:2025/12/20
2

古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著

古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著

渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会

渡部昇一氏には、若き頃に留学したドイツでの体験を記した『ドイツ留学記(上・下)』(講談社現代新書)という名著がある。1955年(昭和30年)から3年間、ドイツに留学した渡部昇一氏が、その留学で身近に接したヨーロッパ文明...
収録日:2021/08/06
追加日:2021/10/23
渡部玄一
チェロ奏者
3

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割

豊臣と羽柴…二つの名前で語られる秀吉と秀長だが、その違いは何なのか。また、これまで秀長には秀吉の「補佐役」というイメージがあったが、史実ではどうなのか。実はこれまで伝えられてきた羽柴(豊臣)兄弟のエピソードにはか...
収録日:2025/10/20
追加日:2025/12/18
黒田基樹
駿河台大学法学部教授 日本史学博士
4

「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない

「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない

「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会

アメリカが日本の運命を左右する国であることは、安全保障を考えても、経済を考えても、否定する人は少ないだろう。だが、そのような国であるにもかかわらず、日本人は、本当に「アメリカ」のことを理解できているだろうか。日...
収録日:2022/11/04
追加日:2023/01/06
橋爪大三郎
社会学者 東京科学大学名誉教授 大学院大学至善館教授
5

大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは

大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは

大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み

大谷翔平選手は今や野球界だけでなく世界中のスポーツ界の象徴的存在だが、本人は「自分も最初からこの体と技術があったわけではない」と努力と練習の成果を強調している。いったいどんな出会いやプロセスが彼を育ててきたのか...
収録日:2024/11/28
追加日:2025/03/03
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト