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DATE/ 2021.08.06

ドラッグストアがスーパー化する理由

 近年、ドラッグストアで売られる食品や日用品の品数が充実し、価格もより安くなってきています。もはやドラッグストアは薬局というよりもスーパーに近く、商品によってはスーパーより安いものも売っているという感覚を持っている方も多いでしょう。

 ドラッグストアは、なぜここまでスーパー化したのでしょうか。

ドラッグストアの総販売額は「食品」が最も多い

 経済産業省の発表によると、ドラッグストア業界の商品販売額は2020年度で7兆2,841億円、店舗数は17,000店となり、前年比で3.5%増加となったといいます。

 特にこのコロナ禍においては、外出自粛により遠くの大型店舗に行かず、近場のドラッグストアで全ての買い物を済ますという傾向が強まった影響から、売上が大きく伸長したと考えられています。

 なかでも食品の売上が好調で、前年比で6.6%の増加。販売額は約2兆円となっており、ドラッグストアの総販売額の約30%という最も大きい比率となっています。

なぜ食品を取り扱う?

 ドラッグストアが食品類の販売に注力する最大の理由が、お客さんの来店頻度の向上です。

 ドラッグストアの利益の根幹となっているのは、高い粗利率を誇る「医薬品」そして「化粧品」類。しかしいずれも回転率が悪く、集客しやすいものでもありません。特に医薬品は、薬価が下がることはあっても高くなることはほぼないに等しく、調剤薬局を併設している場合だと薬剤師の人件費もかさみます。医薬品・化粧品中心では、経営も先細りになる可能性が高いのです。

 そこでドラッグストア各社は、洗剤やティッシュペーパーといった普段使いの日用品や食品類を充実させ、なおかつ特売品を店頭に置くことでお客さんを呼び込み、医薬品や化粧品の購買へつなげるというビジネスモデルへと進化。これが昨今の「ドラッグストアのスーパー化」の要因となっているのです。

スーパーやコンビニで買うよりも食品が安いのはなぜ?

 ドラッグストアで売られている食品の中には、スーパーやコンビニで買うよりも安い商品が売られている場合があります。これは食品で利益が取れなくても、医薬品や化粧品の収益でまかなえるという考え方によるものです。

 一概にはいえないものの化粧品の原価率は20%未満といわれ、粗利率はかなりのもの。大手ドラッグストアの中でもマツモトキヨシの化粧品の売上高比率は42%(2018年度決算)と百貨店の44%とほぼ代わらない比率で、同業他社の比率を大きく上回っています。

 最近では、百貨店の閉店によって販路を失いつつある高級ブランド化粧品がドラッグストアで販売を開始するパターンもあり、ドラッグストアの新しい形となりつつあります。大手ドラッグストアのウエルシアでは、2019年3月に高級ブランド化粧品専門店である「NARCIS(ナルシス)」1号店を東京の台場に出店。2021年現在では関東圏内に計8店舗が出店しています。

 安く売れる理由のもうひとつが、「大量発注&大量販売」です。大手ドラッグストアであれば、全国の店舗数は1500を越えているため一度に大量に仕入れることができ、販売価格も抑えることができます。できるだけ安く商品を売って集客したい(スーパーに行く客を奪いたい)店側と、商品を売り切りたいメーカーのメリットが一致した結果、より安い商品がドラッグストアの店舗に並ぶようになったのです。

冷凍から生鮮食品まで取り扱う店舗も増加

 一昔前まではドラッグストアで売られる食品といえばペットボトル飲料くらいでしたが、最近では菓子類や加工食品に加え、大型の冷蔵ケースを設けて冷凍食品を扱う店舗や、生鮮食品まで取り扱う店舗も増えてきました。

 クスリのアオキでは生鮮食品販売を強化するため、石川、京都ほか4社のスーパーを買収。総売上高の5割以上が食品というコスモス薬品は「ディスカウントドラッグ」を標榜し、ディスカウント型の食品スーパーが医薬品を取り扱うというコンセプトで地盤の九州から関東へ出店するなど、急拡大を見せています。

 スーパー化したドラッグストアは我々消費者としては便利であるいっぽう、品揃えが似たり寄ったりになりがち。地域によってはドラッグストアが密集しているところもあり、「どこに行っても同じ」という印象を受けやすくなっています。

 医薬品や化粧品に特化していくのか、食品部門を徹底して磨いていくのか、ひたすら安売りを目指すのか。今後、ドラッグストア各社が他店とどのように差別化していくかに注目です。

<参考サイト>
ドラッグストアが薬よりも化粧品や食品にますます力を入れる理由│DIAMOND ONLINE
https://diamond.jp/articles/-/197839
2020年小売業販売を振り返る│経済産業省
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikeizai/kako/20210409minikeizai.html
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西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授