テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2022.01.31

今さら聞けない「メタバース」とは何か

 2021年の流行語にもなった「メタバース」。業界ではそれほど新しいワードではなく、2003年、3DCGで構成されたインターネット上に展開した仮想世界「セカンドライフ」で注目されたコンセプトでした。昨年(2021年)、フェイスブック社がメタバースを軸足に事業を行うことから、社名をメタに変更したニュースを皮切りに一般的に注目されるようになりました。

あらためてメタバースとは

 一般的に次世代の仮想空間と解される「メタバース」ではありますが、そのコンセプトは仮想空間であること以上の意味を持っています。

 メタバース(Metaverse)の語根からみていくと、メタ(Meta)は、「超越した」といった意味をもつギリシャ語の接頭辞であり、バース(verse)は詩という意味もありますが、宇宙、森羅万象、世界などの意味をもつユニバース(Universe)に重ねた造語であるように解釈できます。

 メタバースとは、これまでの生活空間を超越したワールドモデルとして、ネットワーク上の仮想空間のための、多種多様な理論や発想、技術などを包含したコンセプトとして捉えるべきワードなのです。

実現されたメタバース

 仮想空間で何ができるのかというところですが、分かりやすいところではコロナ禍において大ヒットしたゲーム「あつまれ どうぶつの森」をイメージするとよいでしょう。

 ご自身をゲーム世界に登場させ、無人島ぐらしを楽しむというもので、その世界には、同様に無人島ぐらしを楽しんでいる様々な人とも交流できるという遊びです。ゲームの中だけの作られたキャラクターだけではなく、世界のあらゆる人がキャラクターとしてゲームの中に登場できる仕組みがキモになります。

 ちょっと古くて新しいところでは、細田守監督の「サマーウォーズ」「竜とそばかすの姫」に共通する仮想世界“OZ”、“U”もメタバースのイメージになります。

 映像作品やゲームコンテンツとは違って、現実の世界とは異なる生活を送ることができるデジタルコンテンツとして脚光を浴びたのが、2003年「セカンドライフ」になります。運営会社であるリンデンラボは、当時から「メタバース」というコンセプトのもと、リンデンドル(空間内の通貨)での取引や、リンデンスクリプト(簡易プログラミング言語)によってクリエーターを募り、空間の拡張を行いました。

 「セカンドライフ」は、一個人だけではなく、電通、サントリー、ソフトバンクといった大手企業も参画し、セカンドライフ内に仮想店舗を出したり、マーケティング活動を行ったり、2000年代初頭の一大ブームとなりました。

再注目されたメタバース

 2007年以降、大手企業が離脱し、一般利用者も激減した「セカンドライフ」に象徴されるメタバース市場が、再び注目されるようになったのは理由があります。

 一つ目は、ネットワーク通信の速度と容量、革新的なデバイスの処理速度と進化。

 当時はスマホ前夜ともいうべき時代で、3DCGの処理スピードなどからもメタバース環境にアクセスするにはハイスペックなパソコンが必須でした。そうした限られた人のためのプラットフォームから環境が一変し、パワフルなスマホやそれに対応するアプリの普及によって、誰もが簡単にメタバースにアクセスできるようになったのです。

 二つ目は、スマホの普及とともに、SNSとアバターが一般化したこと。

 多くの人が、リアルと必ずしも同一でないバーチャルのアイデンティティを持つことが一般化したことで、ネット上の仮想世界がなじみ深いモノとなりました。

 三つ目は、暗号通貨などの普及で個人や企業が「稼げる」可能性。

 2000年代と比較して、インターネット上で決済する方法が一般化し、バリエーションも豊富になりました。加えて、ブロックチェーン技術をベースにした、NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)が登場することで、デジタルコンテンツが複製問題をクリアして、「所有」「資産化」できることへの期待もこめられています。

 2021年12月には技術・サービスの普及などを目指す業界団体・日本メタバース協会が設立されました。

 しかし、メタバースの先行事例として「セカンドライフ」の時代と比較すると、技術や価値観は大きく変化したものの、実際の世界と同様に複数乱立しにくいのがメタバースの宿命です。ひとつに集約するには、独占的な企業の権益もからみ、予測が難しくなりそうです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道

機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
木下康司
元財務事務次官
2

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

地政学入門 ヨーロッパ編(9)EUの深化・拡大とトルコの問題

国際政治の理論として国同士の経済交流、相互依存が安全保障、つまり平和を維持できると伝統的に考えられてきたが、今般の国際政治ではそれは必ずしも当てはまらないようだ。そこでEUの問題である。国の垣根を越えて世界国家に...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/30
小原雅博
東京大学名誉教授
3

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者
4

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か

昨今、生成AIに代表されるようにAIの進化が目覚ましく、「AIに代わられる仕事、代わられない仕事」といったテーマが巷で非常に話題となっている。では、AIに代わられない事とは何であろうか。そこで、『江藤淳と加藤典洋』(文...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/25
與那覇潤
評論家
5

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション

私たちに欠かせない「睡眠」。そのメカニズムや役割についていまだ謎も多いが、それでも近年は解明が進み、私たちの健康に大きく関与することが明らかになっている。まずは最新情報を盛り込んだ睡眠が果たす5つの役割を紹介し、...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/06/05
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授