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行動経済学とは?…「心理学+経済学」はこんなに役に立つ!(阿部誠先生)
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
「行動経済学」という言葉も、よく聞く言葉の一つです。「現代人の行動や企業行動を理解するのに知っておくべき」とか「ビジネスで必須だ」とか「最強の学問だ」など、様々なことがいわれています。
はたして、「行動経済学」とはどのようなものなのでしょうか。本日は、阿部誠先生がテンミニッツTVで、とてもわかりやすく解説くださった講義を紹介いたします。
この講義を見れば、行動経済学の基礎から実践まで、「知っておくべきこと」をとてもわかりやすく理解することができます。
◆阿部誠先生:行動経済学とマーケティング(全6話)
(1)「行動経済学」とは何か
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5362
「ホモ・エコノミカス」は正しい?…「伝統的な経済学」とどう違うか
まず最初に阿部先生が確認するのは、「行動経済学」は「伝統的な経済学」とは視点が異なるということです。
「伝統的な経済学」では、人間は「ホモ・エコノミカス(日本語では「経済人」)」であることをその前提におきます。
「ホモ・エコノミカス」には3つの仮定があります。
◆人は超合理的に行動する――全ての選択肢を知っていて、そこから瞬時に最も高い効用や利益をもたらすものを選ぶ。
◆人は超自制的に行動する――現在と将来をはかりにかけた上で、将来得られる利益が大きければそれを優先する。
◆人は超利己的に行動する――意思決定に当たっては自分の利益しか考えない。
なるほど、このように仮定しておけば、様々な局面での人間の行動を類型化することもできます。しかし、本当に人間は、この3つの仮定のように行動するでしょうか。
まず、人間は本当に「超合理的に行動する」のか?
阿部先生が例に挙げるのは、アメリカの高級オーディオメーカーが、日本で売り上げを伸ばそうと値段を下げたところ、逆に売り上げが落ちてしまった事例。さらに、ドラッグストアに200以上のシャンプーのブランドがあるのに、人間は本当に「自分に一番適したものを選べているのか」ということです。
ここからわかるのは、人間は必ずしも合理的にのみ行動しているのではなく、意思決定が文脈など様々な状況で左右されてしまっていることです。
2つめの「超自制的に行動する」。これについても阿部先生は、「禁煙をすれば健康リスクが低下することがわかっているのに、つい目先のたばこ1本で禁煙を先延ばししてしまう」人間心理を例に挙げます。つまり、実際の人間は、目先をより重視して、変化や嫌なことを先延ばしにしたりするのです(現状維持バイアス)。
3つめの「超利己的に行動する」も同様に、必ずしも人間行動のすべてに当てはまるわけではありません。阿部先生が挙げる例は、自分を犠牲にしてでも他人のことを思いやったり、SDGsなど若干自分に負担を伴っても社会のためならばやろうと考えたりすることです。たしかに、すべてにおいて超利己的に行動する人は、案外少ないかもしれません。
阿部先生は次のようにおっしゃいます。
《つまり、実際の人間は、ほどほど合理的、ほどほど自制的、ほどほど利己的に行動する、ということになります。これを、行動経済学では公理に入れて、実際の経済現象を説明する。このような仕組みになっています》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5362
「ほどほど」……。たしかに、ほとんどの人間は「ほどほど」に行動する存在であるというのは、まさに真実でしょう。そのような生々しい前提を置いていることが、「行動経済学」が実用的かつ興味深いものになるゆえんでしょう。
行動経済学とマーケティングの関係は?
さて、マーケティングについて考えたり、実行したりするうえで、行動経済学は欠かせないとよくいわれます。
阿部先生は、「マーティングの神様」といわれる、アメリカの経営学者・フィリップ・コトラーの次のような言葉をご紹介くださいます。
《実は行動経済学は『マーケティング』の別称にすぎない。過去100年にわたりマーケティングは経済学とその実践に基づく新たな知識を生み出し、経済システムが機能する仕組みに関することに役立ててきた》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5362
この言葉を受けて、阿部先生は、行動経済学とは、これまで実務家、マーケター、経営者がなんとなく勘や経験から行なってきたことを、系統的に、実際のビジネスに使えるような形で学問の世界で構築したものだとおっしゃいます。
こうご説明いただくと、「行動経済学」の位置づけや意義が、より明瞭に浮かび上がってきます。
行動経済学の3分野とは?
続いて阿部先生は、「行動経済学の3分野」として、以下のように掲げられます。
(1)現象の描写
⇒ヒューリスティックスとバイアス
(2)メカニズムの説明と理論
⇒二重過程理論、プロスペクト理論、心理的会計、取引効用理論、etc.
(3)実社会への適用
⇒ナッジ、政策、シカケ
そのうえで、そのうちのいくつかについて、ご解説くださいます。
まず、「現象の描写」です。最初に見たように、人間はほどほど合理的、ほどほど自制的、ほどほど利己的に行動します。しかし、この「ほどほど」にはある程度のパターンがある。それを研究する分野が「現象の描写」なのです。
認知にバイアスがあることは、皆さんご想像のとおりです。阿部先生は、「内向きの矢印と外向きの矢印でどちらの棒が長いか」という、多くの方がご覧になったことがあるであろう事例でわかりやすく説明されます。
なお、この認知バイアスについて、より詳しく学びたい方は、ぜひテンミニッツTVの鈴木宏昭先生の講義をご覧ください。
https://10mtv.jp/pc/content/lecturer_detail.php?lecturer_id=307
さて、続いて2番目の「メカニズムの説明と理論」です。なぜ人間の行動に、一定のパターンが出るのか。そのキーワードが、「ヒューリスティック」なのだといいます。
「ヒューリスティック」とは日本語で「簡便法」。つまり簡単に情報処理をすることを意味します。直観や経験則でパッと判断するのは、まさに「ヒューリスティック」です。
一方で、システマティック、非常に系統立てて合理的に考える「熟慮型」もあります。人間は、状況に応じてその2つを使い分けている。これを心理学では「二重課程理論」といいます。
この「ヒューリスティック」についても、上で紹介した鈴木宏昭先生の講義でご解説いただいていますので、ぜひご参照ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4877
いざ、ケーススタディ~「オトリ商品の罠」とアンカリング
そして講義は、いざケーススタディに。最初にご解説いただくのは、ヒューリスティックとバイアスを踏まえた「オトリ商品の罠」「アンカリング効果」についてです。
アメリカのマーケティング研究者アリエリーの実験ですが、週刊ビジネス雑誌『エコノミスト』の年間購読料のどちらを選ぶかを、自分の授業に出ている学生に聞いたものです。
最初の選択肢は下記です。
(Study1)
・ウェブ版:59
・ウェブ版+印刷版:125
そうしたところ、59ドルの「ウェブ版」を選んだ学生が68%、125ドルの「ウェブ版+印刷版」を選んだ学生が32%でした。
次に、別の授業で、上記の2つのプランに加えて、もう1つのプランを足して聞きました。
(Study2)
・ウェブ版:$59
・ウェブ版+印刷版:125
・印刷版:125
つまり、印刷だけのものでも125ドルと設定したのです。さて、結果はどう変わったでしょうか。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5374
なんと「ウェブ版+印刷版:$125」を選んだ率が(Study1)32%⇒(Study2)84%に大幅に増加し、「ウェブ版:$59」を選んだ率が(Study1)68%⇒(Study2)16%に減少したのでした。
ちなみに、「印刷版:$125」のプランを選んだのは0%でした。「ウェブ版+印刷版:$125」であれば、同じ125ドルでウェブ版も読めるのですから、当然といえば当然でしょう。
しかし、この「印刷版:$125」があるので、「ウェブ版+印刷版:$125」の選択肢が非常にお得で魅力的に見えてくる。これが「オトリ商品の罠」という現象だといいます。つまり、最初の2つの選択肢が、3番目の「印刷版:$125」の影響で引っ張られたのです。
これを「アンカリング効果」といいます。「印刷版:$125」という選択肢がアンカー(基準となる情報)になったのです。
これを応用して、次のような価格設定もあるといいます。お寿司の「松・竹・梅」のセットで、「梅」だけではなく「梅プラス」を出すというのです。
この「梅プラス」は、品質は『梅』と同じだけれど、価格は『竹』と同じく値段を高くする。差別化は容器を豪華にしたり、金粉をまぶしたり、期間限定をうたったりすればいい。するとどうなるか。
「梅プラス」と「竹」は、値段が同じなのに「竹」のほうが品質がいいので、より多くの人が「梅」ではなく「竹」を選ぶようになる。つまり、「梅プラス」がオトリ商品となって「竹」の高品質の強みを引き立てたのです。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5374
なるほどこのような事例は、街場のレストランなどでも、よく見かけます。
さらにケーススタディ~「心理的会計」と「取引効用理論」
さらに講義では、次のような事例も紹介します。
◆ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学・テイラー教授の提唱する「心理的会計(心理的勘定)」という理論をもとにしたものですが、次の「状況A」「状況B」はどのくらい購入率が違ったでしょうか? この違いが、「自分へのご褒美」「週末の特別感」「贈答品」などといった訴求の基になるというのですが……。
⇒状況A:1万円のミュージカルのチケットを買って会場に行ったところ、チケットをなくしてしまったことに気づきました。このときにあなたは1万円を追加で払ってミュージカルのチケットを買いますか。
⇒状況B:ミュージカルを見るため会場でチケットを買おうとしたところ、ポケットの1万円を落としてしまったことに気づきました。まだ1万円を違うところに置いてあったのですが、それを使ってチケットを再購買しますか。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5375
◆次も同じくシカゴ大学・テイラー教授が提唱した「取引効用理論」に基づくものです。
⇒あなたは夏の暑い日、ビーチで寝ころんでいます。友達が「ビールを買ってこよう」と提案しました。この近辺でビールを買えるところがおしゃれなリゾートホテルのバーしかなかったとき、あなたはいくら払いますか。あるいは、ビールを買えるところが古びた食品雑貨店だった場合、あなたはいくら払いますか。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5376
この問いから見えてくるのは、「満足度」を高めるものは何かを明らかにする「取引効用理論」す。さらに、この「取引効用理論」を応用すれば、様々な販売方法のヒントが得られるとうのですが……。
これらについては、ぜひ講義の第4話以降をご参照ください。
行動経済学が、とてもよくわかる講義です。ご覧いただければ、必ずや多くの「気づき」や「ヒント」が得られることでしょう。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
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