社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.06.17

人工知能が給料を決めて小説を書く?AIがひらく未来

 5月11日のYahooニュースに1つのブログ記事が転載されました。

 タイトルは「人工知能が給料を決めている会社」。SE、商社マン、香港IT会社社長、外資系ERPベンダーのプリンシパルと4つの顔を持つ成迫剛志氏が、自身のブログ「成迫剛志の『ICT幸福論』」にアップしたものが元になっています。

 筆者によると、それは人工知能を手掛けているグローバルIT企業が取り入れた事例。自社製品活用による話題づくりなのかどうかはわかりませんが、従来から会社の人事規定としてデータベース化されてきた「個々人の保有するさまざまなスキルとそのレベル」を人工知能が読み込み、判断を加えて給料調整を行い始めたということのようです。

 ワールドワイドに活躍する筆者は独自の予想も試みていますが、「いまのところは」人工知能が給料を下げたケースはない模様。ただし、直属上司も知らない間に「上げた」ケースはあるそうで、これからの成り行きが注目されます。給料アップは「自己申告したスキルにしてはよくやっている」ということなのか、「今後の成長も見込んで」のことなのか、気になるところですね。

碁でも小説でも活躍し始めたAI

 それにしても、2016年の春以来、「人工知能(AI)」の進化とそれを支える「ディープラーニング」の話題には一挙に火がついたようです。そのきっかけとなったのは、3月中旬に韓国から舞い込んだニュースから。グーグルの開発した「アルファGO(碁)」が韓国の囲碁チャンピオンであるイ・セドル9段に4勝1敗で勝ち越し、韓国棋院より名誉9段を授与されたのです。3連敗を喫したイ・セドル9段は人類の運命を双肩に担う悲壮感さえ漂わせて、4戦目で一矢を報いたのでした。

 同じ頃、日本国内を賑わしたのは「人工知能が小説執筆 文学賞で選考通過」のニュースでした。こちらは人間と人工知能による共同創作小説を開発するプロジェクト。第3回「星新一賞」に応募した結果が、報告会で明らかになりました。審査者には人工知能使用作品であることを伏せたまま、4作品を応募し、うち1編が予選通過となったものです。

 「星新一賞」は、2013年に「理系的発想力を問う」ために日本経済新聞社が創設した文学賞。応募規定には「人間以外(人工知能等)の応募作品も受付けます」の一文もあり、今回の応募作品2561作品のうち、AIによる応募は11編あったということです。

「“仕事がない世界”」は妄想なのか?

 こうした動きを受けてか、NHKでは3月15日放映の「クローズアップ現代」で「“仕事がない世界”がやってくる!?」と題してシンギュラリティ問題を特集。さらに24日には「人工知能はどんな未来をひらくのか?」と題して、「アルファ碁」や「小説執筆」の動きを追いました。その解説者として呼ばれたのが、10MTV講師で東京大学大学院工学系研究科准教授・松尾豊氏です。

 松尾氏は『人工知能学会』の倫理委員長も務める、日本の人工知能研究のトップランナー。その彼でさえ、「僕は、3年ぐらいあとに勝つようになるかなというふうに思っていたんですけれども、それよりも、だいぶ早かったですね」とコメントするほど、「アルファGO」の「かしこくなり方」はスピードアップしていたようです。

 速さの秘密が「ディープラーニング」。人工知能がさまざまな能力を切り開いていくことについて、松尾氏はあくまでも楽観的で、「人間の仕事がなくなる」といった心配はしていません。

 むしろ、彼が不安に感じているのは、10MTVの中でも話していますが、少子高齢社会において、どのように世界のモデルとなるようなロボットを日本が速やかに開発できるのか。また、スピードアップするAIの進化に、「モノづくり大国」の自信を持つ日本は乗り遅れているのではないか、の2点です。

 枯れ尾花に幽霊を見るのは、日本人の悪い癖。正体を知らずに「AIアレルギー」を抱え込んでいたのでは世界との差は開くばかり。開発者たちにとって最も怖いのは、そちらのほうなのかもしれません。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か

アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
2

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観

岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/20
3

島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本

島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本

編集部ラジオ2025(28)内側から見た日米社会の実状とは

ある国について、あるいはその社会についての詳細な実状は、なかなか外側からではわからないところがあります。やはり、その国についてよくよく知るためには、そこに住んでみるのがいちばんでしょう。さらにいえば、たんに住む...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/20
4

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方

人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本

組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授