社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.07.07

イギリスのEU離脱で阿鼻叫喚?ポンドが「殺人通貨」と呼ばれるワケ

 6月23日にイギリスで行われたEU離脱の国民投票。残留派が勝つかと目されていた中、離脱派が予想外の勝利を挙げました。前評判を裏切ると市場は乱れるのが常です。この日も世界中が大混乱に陥りました。

 24日の日経平均が1286円33銭安と暴落。ITバブル崩壊後の2000年4月17日(1426円04銭安)以来、約16年2カ月ぶりの大幅下落で、歴代の下落幅でも1990年3月19日(1353円20銭安)に次ぐ8位となりました。

ドル円相場よりも大きく動いた相場がある

 「有事は円買いが進む」と言われ、為替市場も急激に円高が進みました。日本の貿易に最も大きな影響を及ぼすドル円相場は、開票前は106円前後を推移していたものの、離脱派優勢と様相を呈してくると105円を切るようになり、離脱派勝利が確定的になると一時99円まで急騰。株安と同時進行する形で市場に大きな爪痕を残しました。

 ドル円相場は取引量が多いだけに比較的値動きは安定し、日中の値動きが1円以内に収まることが多いのですが、その中での106円台から99円台までの急騰は大混乱を象徴していると言えるでしょう。でも、それ以上に大きく動いた相場があります。まさに今回の「主役」と言ってもいい “ポンド”です。

ポンドが「殺人通貨」と呼ばれるワケ

 ポンド円相場はもともと値動きの激しい通貨ペアで、ドル円が1円以内の動きに収まっているときでも2円から3円ほど動くこともしばしば。ドル円が5円から6円動いたら大事件ですが、ポンド円なら「まあ時々あるよね」というレベル。FX(外国為替証拠金取引)の世界ではその値動きの激しさから、軽々しく扱ったら痛い目に遭うという意味で「殺人通貨」などと呼ぶこともあります。

 日本時間24日午前3時ごろは156円台でしたが、EU残留と予想する投資家が増えたためか7時前後には160円を突破。しかし、離脱優勢となった9時過ぎには一転150円を割り、離脱派勝利が確定的となった午後1時半ごろには一気に133円台まで到達しました。実に27円の値動きになります。

急激な値動きで投資家の「防衛線」も突破

 FXは「ポンドが○○円に到達したら決済する」と自分で損失が拡大しないように設定をしたり、証拠金(業者に預けたお金)以上の損失を出さないため一定割合の損失が出たら強制的に決済させられるシステムがあります。しかし、値動きが急激なときはそうした「防衛線」を突破することもあるため、今回は証拠金以上の損失を出した人も少なくないでしょう。「YJFX!」の口座を持っているトレーダーのリアルなトレード結果を公開している「YJFX!ファイナンススタジアム」では、数千万単位の損失を出した人がごろごろいて、阿鼻叫喚と言っても差し支えないような状況になっていました。

 かつて2007年7月には1ポンド250円ほどでした、2008年のリーマンショックなどもあり1年半後の2009年1月には118円台まで下落。リーマンショック前の数年間は円安傾向にあり、スワップ(利息)狙いで円売り外貨買いをする個人投資家が中心だったのですが、彼らにとって円高は死活問題。リーマンショック期はポンドに限らずほぼすべての通貨に対して円高基調ではあったのですが、値動きの幅ではポンドがナンバーワン。「殺人通貨」の名前通り、多くの投資家を市場から退場させたと言われています。

 国民投票でEU離脱が決まったとは言え、最低でも2年ほどかかると言われています。国民投票のやり直しを求めることも少なくないと報道されています。イギリスの、そしてポンドのこの先をめぐり、世界の市場はまだまだ一波乱、二波乱ありそうな様相です。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
2

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

歴史の探り方、活かし方(5)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈下〉

豊臣秀次事件に対する見方を変えた『武功夜話』だが、実は偽書疑惑もある。今回は、そのことに鋭く迫っていく。『武功夜話』は、豊臣秀吉に仕えて大名まで上り詰めた前野長康の功績を中心に記された史料だが、その発表・出版の...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/28
3

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた主な要因として、二つのオウンゴールを挙げる島田氏。その一つとして台湾のモリス・チャン氏によるTSMC立ち上げの話を取り上げるが、日本はその動きに興味を示さず、かつて世界を席巻して...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/25
4

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

編集部ラジオ2025(29)歴史作家の舞台裏を学べる

この人生を生きていくうえで、「歴史」をひもとくと貴重なヒントにいくつも出会えます。では、実際にはどのように歴史をひもといていけばいいのか。

今回の編集部ラジオでは、歴史作家の中村彰彦先生がご自身の方法論...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/27
5

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授