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DATE/ 2016.08.02

来るべき「大失業時代」を生き残る人材とは?

 現在、失業率は低く、新卒の採用合戦も、かつてないほど加熱しています。人手不足が深刻化し、労働市場は売り手市場だといわれています。

 就職氷河期だといわれた時代も遠い過去の話。アベノミクスの成果として、安倍政権がさかんに宣伝している実際の経済現象です。

 一方で、実質賃金が下がり、生活が圧迫されているという現状もあります。アベノミクスの失敗として、野党がさかんに批判した、こちらも実際の経済現象です。

 一体、景気は良いのでしょうか?悪いのでしょうか?

現在の人手不足は一時的なもの?

 現在、企業は大量に人材を抱えるために躍起になっています。となると、最も簡単な手段は賃金を上げて、人を引き寄せたり、退職を防いだりするのが最も簡単な手段ですが、本当に優秀な一部の層を除いて、給料が劇的に上がっているという話を聞くことはほとんどありません。

 実は、企業が採用活動を強めている理由は、今後の労働力不足に備えてという側面が強いといわれています。少子高齢化で、若年層人口はどんどん減りつつあり、その勢いは今後も衰えないでしょう。つまり、現在の経済状況は、良くも悪くもアベノミクスとは関係ないということです。

 少子高齢化が進むと、高齢者はどんどん退職していくのに、それを補う若い働き手は採用がままならないという状態が予測されます。なので、今からそれに備えて採用活動を強めているというわけなのです。

 今のうちに人材は確保しておくけれど、それは将来の備えであって、売上が伸びたからではありません。現在売上が上がっている、もしくは将来上がる可能性が高いというなら給料も上げやすいでしょうが、そうでないなら、給料を上げてしまうとまずいことになります。

 なので、就職はしやすいけれど、実質賃金は下がっているという状態が生まれていると考えられるのです。

景気の悪化とロボット化

 しかし、少子高齢化によって働ける人口が減るということは、積極的に消費する人口も減るということです。年金は現役時代の収入よりも一般的に低いものですから、それも当然の話です。それは、モノをつくったりサービスを提供してもなかなか売れないということを意味します。

 つまり、企業はせっかく人をいっぱい雇ったのに、仕事を与えられないという状況になってしまうということなのです。そうすると、せっかく雇った人材でも手放すしかありません。当然雇用も再び悪化します。

 また、現在は人工知能とロボットの導入が著しく進んでいます。それはつまり、10年前には100人でやっていた仕事が、ロボットの導入により現在は10人で、さらに10年後には1人で済むようになってしまうということです。そうなると、少子高齢化も関係ありません。年をとらず、給料も退職金も要らないロボットの方が企業としてもよっぽど都合が良いでしょう。

今こそ人間らしさを磨くとき

 現在は、大失業時代の一歩手前、小休止の時代といえるかも知れません。そうなると、今後に備え、今からできることは次のようになるでしょう。

・脳と体の若さをなるべく保ち、労働できる期間を延ばしておく
・ロボットに置き換えられないスキルを身につける

 健康を保ち、労働できる期間を延ばしておくことは非常に重要です。今後、定年は延び、あるいは廃止されていくでしょう。そのとき、企業としては、新しい人材を採用するための費用をつぎ込むよりも、昔からいる人材を雇用し続けるほうが合理的です。しかし、当然のことですが、それは働き続けられるのであれば、です。

 年をとったときに、衰えてもできる仕事を探すのは大変ですが、若いときからと同じ仕事を続けられるのであれば、自分にとっても、採用や教育に新しいコストを遣わなくてよい企業にとっても幸せな話です。

 そして、もうひとつは人間らしいスキルを磨くことです。これはつまり、ロボットに置き換えられない仕事の技術を身につけるということです。

 例えば、ロボットは自動車をつくることはできますが、自動車をつくるロボットをつくることは人間にしかできません。ロボットは選択肢の限られたオーダーには応えることはできますが、複雑なニーズをくみ取って気配りの細かい接客をすることはできません。ロボットは条件を入力すれば、最適のプランを提示することはできますが、ゼロからまったく新しいアイディアを企画することはできません。

 このように、将来も決してロボットに置き換えられない仕事で自分が得意なこと、やってみたいことを見つけ、そのスキルを磨いておくことが、今後の大失業時代を乗り切るためのサバイバル術なのです。
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授