テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.03.06

今こそ学ぶべき学問「文化人類学」

 文化人類学とは、「人類の社会・文化の側面を研究する学問」で、「生活様式・言語・習慣・ものの考え方などを比較研究し、人類共通の法則性を見い出そうとするもの」(大辞泉)です。つまり、人類の文化という大きなテーマを扱っているため、ジャンルを超えて様々な学問領域に影響を与えているのです。では私たちは、文化人類学から具体的に何を学べばいいのでしょうか。また、何を身につけることができるのでしょうか。

 そんな疑問に応えてくれる本があります。その本とは、文化人類学を通して常識を疑う力や問題を発見する力、ホンモノの思考力を身につけることができると主張する斗鬼正一教授の著書『頭が良くなる文化人類学 「人・社会・自分」ーー人類最大の謎を探求する』(光文社)です。

 斗鬼教授は、日本テレビ「世界一受けたい授業」や「月曜から夜ふかし」など多数メディアでも活躍しているので、ご存知の方も多いかもしれません。『頭が良くなる文化人類学』のサブタイトルにもあるように「人・社会・自分」という人類最大の謎の探求を目指し、熱帯ジャングルのヤップ島やコンクリートジャングルの香港、庭園都市ニュージーランドのクライストチャーチ、ソウル、また東京、京都、大阪など、日本と海外を股にかけ、日々フィールドワークを実践しています。

世の中を動かす仕掛けを理解することはすごくおトク

 私たちは、IT化やグローバル化によって生み出された激動する現代を生きることを余儀なくされています。また、昨今の世界情勢を見ていると、いつ経済危機やテロが起こっても不思議ではありません。そうは言っても、冷静に考えてみれば、「いつの世も、時代を動かしているのは、結局、人間。だから激動の現代を生き抜かなければならない私たちにとって、人、世の中を動かす仕掛けを理解していることはすごくおトクだ」と、斗鬼教授は著書の「おわりに」に書いています。

 しかし、その「仕掛け」は、ほとんどの場合、「常識」や「当たり前」によって覆い隠されています。斗鬼教授は、文化人類学こそが、その私たちを知らぬ間にがんじがらめにする「常識」や「当たり前」を取り払い、「仕掛け」を理解する一助になると述べています。私たちは、具体的にどんな「常識」や「当たり前」に縛られているのか、本書から少し紹介したいと思います。

実は「人は、自然が大嫌い」だった!?

 人はよく「みどりはきれい」「みどりが大好き」と言います。そこで斗鬼教授は次の問いを投げかけます。

「一方は整然と区画され、作物がきちんと植えられた棚田、他方は雑多な植物が勝手に生えた荒れ地。どちらがきれいで、どちらが汚いだろう?」

 これに対し、斗鬼教授は、常識として「勝手に生えている雑草は汚い。整然と区画された田畑の方がきれい」と捉えられることを指摘し、では「どちらは自然か?」とさらに問いかけます。この場合、勝手に生えた荒れ地のほうが「はるかに自然なはず」です。しかし、常識では「きれい」とは捉えられない。つまり、人は「みどりが大好き」と言っても、手を加えた自然と手付かずの自然を区別しているということではないでしょうか。

「常識」を疑うことの重要性~文化人類学は今こそ学ぶべき学問

 人の不思議はまだまだたくさんあります。多くの人が男女の性別や性差、父母の役割を当たり前だと思っていますが、世界には私たちから見ると男らしさと女らしさが逆の民族がいたり、女になったり男になったりできる民族や、女が父になる民族もいます。

 以上のような事例から、人間はありのままの自然を受け入れるのではなく、自然に対してそれぞれの民族がそれぞれに境界を設定し、分類を作り上げ、それを曖昧にするものは排除するという特性を持っていることがわかります。

 斗鬼教授は、「人は自然も人工物も、ありのままに見ようとはせず、あくまで自ら作った分類に従って見ようとする。自ら作った文化というフィルターをかけ、そのフィルターを通してしか認識しないのだ」と書いています。つまり、そのフィルターが日常化するにつれて、フィルターの存在を忘れ、それを「常識」や「当たり前」と考えるようになるということです。

 そして、飛躍しすぎかも知れませんが、そうなるとその結果、自文化中心主義に陥り、異文化をおかしい、間違っていると考えるようになってしまうのではないでしょうか。自文化中心主義というと、「アメリカファースト」を唱えるトランプ政権や閉塞化するグローバル社会を彷彿とさせます。そうした世界情勢のなかで、「常識」を疑う力は、昨今の激動の時代に対応できる「しなやかあたま」、時代が求める「発見力」「発想力」「独創力」をもたらしてくれると斗鬼教授は述べています。文化人類学はまさに今こそ学ぶべき学問といえるかもしれません。

<参考文献>
『頭が良くなる文化人類学 「人・社会・自分」――人類最大の謎を探求する』(斗鬼正一著、光文社)
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334038069
<関連サイト>
斗鬼正一文化人類学研究室
http://www1.edogawa-u.ac.jp/~tokim/

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

国家は助けてくれない…「三田会」誕生への大きな経験

国家は助けてくれない…「三田会」誕生への大きな経験

独立と在野を支える中間団体(6)慶應義塾大学「三田会」の起源

中間集団として象徴的な存在である慶應義塾大学「三田会」について考える今回。三田会は単に同窓会組織として存在しているわけではなく、「公」に頼れない場合に重要な役割を果たすものだった。その三田会の起源について解説す...
収録日:2024/06/08
追加日:2024/11/22
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授
2

日本の根源はダイナミックでエネルギッシュな縄文文化

日本の根源はダイナミックでエネルギッシュな縄文文化

日本文化を学び直す(1)忘れてはいけない縄文文化

大転換期の真っ只中にいるわれわれにとって、日本の特性を強みとして生かしていくために忘れてはいけないことが二つある。一つは日本が森林山岳海洋島国国家であるというその地理的特性。もう一つは、日本文化の根源としての縄...
収録日:2020/02/05
追加日:2020/09/16
田口佳史
東洋思想研究家
3

謎多き紫式部の半生…教養深い「女房」の役割とその実像

謎多き紫式部の半生…教養深い「女房」の役割とその実像

日本語と英語で味わう『源氏物語』(1)紫式部の人物像と女房文学

日本を代表する古典文学『源氏物語』と、その著者である紫式部は、NHKの大河ドラマ『光る君へ』の放映をきっかけに注目が集まっている。紫式部の名前は誰もが知っているが、実はその半生や人となりには謎が多い。いったいどのよ...
収録日:2024/02/18
追加日:2024/10/14
4

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

今求められるリーダー像とは(3)原敬と松下幸之助…成功の要点

猛獣型リーダーの典型として、ジェネラリスト原敬を忘れてはならない。ジャーナリスト、官僚、実業家、政治家として、いずれも目覚ましい実績を上げた彼の人生は「賊軍」出身というレッテルから始まった。世界を見る目を養い、...
収録日:2024/09/26
追加日:2024/11/20
神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事
5

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担

人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事