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人間には動物とは異なる文化の仲間意識がある

AIに善悪の判断を教える方法~新しい道徳論(4)人間と動物の道徳の違い

鄭雄一
東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻教授
概要・テキスト
東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻教授の鄭雄一氏は、人間の道徳に個別のおきてと個別の社会を超えた共通のおきてがあるという二面性の認識が重要であると説く。この人間の道徳は、バーチャルな仲間意識を持つ点、つまり文化がある点で動物とは異なるのだという。(全8話中第4話)
時間:10:35
収録日:2018/06/20
追加日:2019/06/18
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≪全文≫

●「仲間らしくしなさい」


 前回の仮説ですが、どうやら確かにもともとある二面性の一面のみを強調したのが、これまでの考えの主なものであったということが分かります。ではこれは、全く毛色の異なるおきて2つを単に、接着剤で継ぎはぎしたものなのか、それともさらに上位のおきてがあって、統合できるのかということになります。

 このあたりの話は1つのステートメントにまとめることができます。それは仲間らしくしなさい、という命令です。


●個別のおきてと共通のおきてという道徳の二面性


 この命令は二面性を持っています。1つは個別のおきてで、これは仲間らしくしなさいと言われたとき、仲間と同じように考え行動しなさいということです。この内容は仲間の単位と共に変化します。

 的確な例はあいさつです。握手をするのか、頭を下げるのか、これは仲間の範囲とともに変化します。日本だったら頭を下げる、アメリカだったら握手をする。でもこれは握手をする方が正しいとか、頭を下げる方が間違っているとか、そういうことでは全くなく、相対的なものにすぎません。異なる地理・気候で展開する社会ごとに異なる、ある枠組みに基づく思考や行動の標準化であるということが分かります。これは守ると社会のまとまりが良くなりますが、多様性を阻害する可能性があるおきてでもあります。

 もう一方で、仲間らしくしなさいというとき、仲間に対して危害を加えないという命令を意味する場合があります。これは仲間の範囲が変わっても内容は不変です。日本にいようがアメリカにいようが、仲間に対して危害を加えるな、この命令は絶対的に守らなくてはいけません。なぜか。これを守らないと社会の形成や維持ができないからです。社会の中では協力・分業するわけですから、そのときに仲間に対して危害を加えていいと言ってしまうと、社会が全く成り立ちません。社会のための最小限のおきてであるということが分かります。

 先の回で仲間の話をしたのですが、今回もう1つ重要なことはこのデュアリティーの認識です。二重性があるわけです。われわれの道徳の基本原理は仲間らしくしなさい、ですが、その中に個別のおきてと共通のおきてという二重性があって、このデュアリティーを認識することが大事です。われわれは普段...
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