●バカな人間はバカ、ダメな人間はダメ
―― 先生の思想は、悪漢政や先生みたいな人たちが、たくさん出ていけるような社会をつくる思想ですよね。
執行 もちろんそうです。『脱人間論』とは、そういう意味です。人間をやめる覚悟がないと自分の意見を言えない時代なので、「人間をやめなさい」ということです。
―― 1960年代、1970年代ですから、たかだか50年くらい前の話です。50年くらい前の人に、三島由紀夫みたいな最期はもう自分自身が芸術になる、あの死にざまをやるような人がいた。本当にわずかのあいだに変わってしまったわけですね。
執行 1970年代から今までの50年が最大です。切れたのは20世紀に入ったころからですが、加速がついたのは1970年代です。
誰でも言うことですが、何かが変わりだしたのは、1968年のパリの学生運動からです。あのときからフランス社会もすっかり引っくり返ったと、フランス人はみんな言います。
――(学生街の)カルチエ・ラタンあたりから始まるわけですね。
執行 そう、あそこからです。1968年だから、まさに50年です。これはもう止まらない。ますます悪化します。もう人類史の最後が近づいている。だから最後をどう飾り、自分が人類最後の人間として、どう次の人類に正しく人間の魂を継承していくか。そういう時期に来ているということです。
嫌な言葉で言うと、ホモサピエンスと言われているわれわれ類人猿は、宇宙から人類を託されたわけです。10万年前に。これに応えられなかった、ということです。昔の人の言葉なら、神の期待に応えられなかった。
前に言ったように太陽系まで含めて、われわれをつくった存在の中心エネルギーは、愛のエネルギーです。それを感知・認識して、「それを実践する人間にならなければならない」と言ったのが大宗教家なのです。
―― 確かにそうです。
執行 われわれはその言うことも聞かずに来たので、ついに滅びるときに近づいたということです。
私はこのコロナで、ぐっと近づいたと思います。コロナは世界レベルの話で、世界レベルで秩序が崩れ去るのですから。
―― 崩れ去る。
執行 崩れている部分がどういう部分かも、私は全部チェックしています。すると人類をつくり上げていた項目が、全部なくなっています。水平のほうが、ものすごい勢いで伸びているのです。だから滅びるのは早まったと言える。
―― 水平がものすごい勢いで伸びている。お金をばら撒いたから。
執行 それも一つです。
―― それで縦がますます揺らいできている。
執行 ますますダメです。
―― やはり肉体よりも大事なものがある。それが魂で、この世は魂の修行のために出てきている。
執行 当然そうです。
―― そこにどこかで気づかないと……。
執行 すべての話は通らない。これは別に、宗教家を出すまでもなく、昔の常識人が言う話は全部通りません。バカな人間はバカ。ダメな人間はダメ。いいものが良くて、悪いものは悪い。こういうことが、わからないと。
●救われた文明には、必ずエリートがいる
―― やはり数十人クラスの集団を構成できるリーダーが出てこないと、次に行けませんね。
執行 行けません。それから今までの文明もそうですが、人類がダメになるとき、救われている文明には、必ずエリート集団がいるのです。全部は無理ですが、救われた文明には必ずエリートがいる。
でもエリートをつくることそのものが、今はタブーになりました。だから滅びるのです。もう日本でも、つくれません。アメリカも、ヨーロッパも無理です。ヨーロッパは、日本よりもっと悲惨です。
エリートがつくれなくなったというのは、人体で言えば、免疫機構を失ったということです。要は、害虫に対する抵抗力です。
―― 免疫機能を失ったということなんですね。エリートをつくれないとは。
執行 そうです。そのエリートはどれぐらい必要かというと、人口比で言うと1%要りません。英国で言うと一番英国が発達した時期の英国人口が、だいたい2000万人台です。
―― ヴィクトリア朝は、それぐらいなんですね。
執行 2500万人ぐらいです。その時代にジェントルマンと呼ばれた英国社会の上層が2万人です。そのくらいの数がいれば、十分ということです。でも、その数をつくるのが大変なのです。
英国のトーマス・アーノルドがつくった教育制度で、あれだけギリシア語やラテン語を勉強させ、パブリックスクールからオクスフォード、ケンブリッジを出していった。そうして哲学を持っている人間が、ジェントルマンです。100年間、そんな努力をして2万人なのです。英国が成功したのは、そのエリートをつくり出したからです。日本にはそうしたエリートが、武士階層としていたわけです。
文明にとって一番重要なことは、それをつ...