背骨がきちんと通るためには教育や生育環境も重要である。執行草舟の父は大変な教養人で、三井物産の英語の仕事を一手に引き受けるほどの語学力があり、その縁もあって、戦後、GHQの物資を運ぶ会社の社長を務め、20代で大金を稼いだ。そのため、当時の執行家には、札束を投げて遊ぶほど金があった。おかげでトインビーなど、読みたい書籍も買いたい放題で、その環境が精神形成に大きな影響を与えた。このような階層が国の中に一定程度いることが大事だが、戦後の日本は意図してエリート階層を作らなかった。(全10話中第5話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
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●アメリカ人専用の銀座のPXでも買い物ができた
―― でも先生、やはり背骨がきちんと通っているかどうかで……。
執行 そうでしょうね。親父も佐賀県士族の長男ですから。当時は知りませんが、何かあるのだと思います。
―― いつもいっておられる500石の……
執行 600石ですよ。
―― 600石の奉行職をやられるという。ここが大事なポイントですね。
執行 そうだと思います。だから親も、そういう点が大切です。でも、日本はその親が子どもにマイナー思考や負け犬根性を植え込んでいる。あとはNHKです。NHKがやっているのは最悪です。「どうしちゃったの?」という感じです。
―― 負け犬思考を植え込んで、かつ目も見えないようにさせられて。
執行 まあ聞いている人も悪いのですが……。しかし、私は運がよかったのでしょう。そういう親だったり、立教小学校のようなところに入れてもらわなければ、多分、流されていると思います。文献全部がそうですから。
―― 確かにそうですね。しかも先生は『葉隠』(を読んでいたの)ですからね。
執行 だから運がいいのです。『葉隠』も親父がいなければ持っていません。
―― 山のような本の中で育ったわけですから。
執行 親父はすごい教養人ですから。英語、ドイツ語、フランス語もうまい。英語は特にうまかった。戦前の三井財閥の当主・三井高公が、英語を使うときには全部、親父を若いときから代表として出していました。戦後の三井物産の財閥解体も親父がやったのです。もちろん偉い人として行ったのは当時の社長や専務ですが、親父はまだ20代でマッカーサーとも折衝しました。
親父は執行一平といいますが、マッカーサーが「執行一平ぐらい英語のうまい日本人には今まで会ったことがない」とはっきりいったという証人も何人もいます。そのとき同席していた人たちです。
―― 20代の若さでマッカーサーとやり合うんですね。
執行 アメリカに留学したこともないから、それを聞いてまたビックリした。才能があるのでしょう。マッカーサーがあまりにも感動して、三井物産が財閥解体になったときに東京商運というGHQの下請けで物資を運ぶ運送会社をマッカーサーの肝煎りでやらせてもらったのです。それですごい金持ちになった。
―― それも、すごいですね。
執行 社長で、20代で大儲けした。私はだから札束を投げて遊んでいました、小さい...