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重要なのは、どういう魂の人が学問をしたか

作用と反作用について…人間と戦争(10)情緒と魂

執行草舟
実業家/著述家/歌人
概要・テキスト
問題意識がなくなった日本人は、文学も読まなくなった。読んだとしても感応する情緒がなくなっている。30年前に『若きウェルテルの悩み』を恋愛に興味のある若い女性に勧めたが、ウェルテルが自殺する理由がまったくわからなかった。また悲劇を描いたサマセット・モームの『月と六ペンス』や、悩みが増えるはずのドストエフスキー小説も「楽しかった」で終わってしまう。あれだけ人気のあった山本周五郎や藤沢周平も、今なら出版してもらえまい。『鬼平犯科帳』のどこに人情が描かれているのかさえ、わからない。人間の基盤ができておらず、ただ世の中を「うまく渡ろう」と考えるようになっている。やはり重要なのは学問ではなく、まずは魂があることなのだ。(全10話中第10話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:11:24
収録日:2022/05/19
追加日:2022/09/02
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●『月と六ペンス』を「面白い」という心性


―― しかし、それは難しい本をみんな読まなくなったのと同じですね。

執行 ある意味では、そうでしょうね。

―― 自分に対する問いがないのですから。難しい問題だけでなく、『鬼平犯科帳』も見なければ、山本周五郎も知らない。藤沢周平も知らない。

執行 また、読んでも感動しません。

―― 忠臣蔵も(映画やドラマから)ついになくなりました。12月14日(の討ち入りの日)に。

執行 もう、全然ありません。

―― すごい国です。

執行 今、山本周五郎の名が出ましたが、あれは読んでもダメです。感応する情緒がない。私はいろいろな文学を人に薦めてきましたが、最近はもうほとんど薦めることもない。

 だって、30年前の段階で(こんな話がありました)。例えばゲーテの『若きウェルテルの悩み』は、私が小学校4年のときに読んだ恋愛小説で、純愛の定番です。あれをちょっと恋愛に興味がある若い女性のお客さんに「恋愛だったら純愛をまず覚えなきゃダメだから、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』を読んでみろよ」といったのです。ひと月かふた月してまた来たのでしゃべったら、「あの『若きウェルテルの悩み』には何が書いてあるんでしょう」というのです。

―― なるほど。

執行 恋愛小説だと、まずわからない。二十何年前で、そうです。あれは好きだけれどいえないで悶々として、最後に自殺する物語です。人妻に恋をして。だけど、その情感がわからないわけです。その若い女性がいうには「好きだったらいえばいいのに」と。

―― そうか、情感がわからない。

執行 「自分の思いが遂げられないと、なぜ死ななきゃならないのか」とか。そういう「なんで?」になる。「この人って後ろ向きだ」とかいってしまうのです(笑)。

―― (笑)。けっこうコミュニケーションができなくなりますね。情感がわからないのですね。

執行 これは一例で、ほかにもいろいろな本を薦めましたが、今は薦めることもない。読んでもわからないので。サマセット・モームの『月と六ペンス』は、破滅してタヒチに行ったポール・ゴーギャンの生涯を書いたものです。激しい人間で、すべてのものを捨ててタヒチに行って絵だけを描いて、最後にその絵を全部燃やして自分も死んでいく。激しい小説です。私はとても感動した。

 それを「情熱とは何か」ということで人に...
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