●ジョン・ミルトンの『失楽園』は『葉隠』と同じ
―― 先生のお父さんは戦前の教育ですね。
執行 そう。戦前の大学を出て、戦前の三井物産に入っています。
―― 東京商大(東京商科大学。一橋大学の前身)で。
執行 だから旧制(官立大学)です。商大予科から本科に行きました。
―― やっぱり、戦前はエリート教育があり、三井物産みたいな圧倒的にキャリアを持ち上げるところが……。
執行 それは、そうです。
―― それがないと、やはり戦えない。
執行 当時の三井物産がそうです。三井物産は明治から国家と共に生きているので。特に親父が入った頃は、まだ。財閥解体前の三井物産ですから。
―― そういう人たちが1万か2万くらいいないと階層として戦えないですね。
執行 個別ではダメです。私もそうですが、個別だと「変人」で終わりです。「ああ執行さん、変人ね」と。これが10人いたら「変人」とはいえません。でも10人なんて、とてもいない。
―― それが塊の層でいたら、めちゃくちゃに強いですね。
執行 だから、それほど難しい話ではないのです、本当は。
―― だけどその層がいないと収奪されて、ボロボロにされて捨てられてしまうわけですね。国の富がどんどん奪われるわけですね。
執行 そういうことです。英国がジェントルマンを作って、世界を制覇したときの英国の知恵がありますね。その知恵をアメリカは一応、受け継いでいます。だから今アメリカは、いい気になっている。でも、英国みたいな歴史的基盤がないので、もっとずっと浅いのです。
―― 深みがないんですね。
執行 英国は深いです。私は英国も好きですが、すごく深い。英国史はだから魅力的です。
―― 特に先生は、19世紀の後半が好きなわけですね。
執行 そこも好きですし、クロムウェルやジョン・ミルトンなどの時代も好きです。やはり文学好きですから。英国を動かしたプロテスタンティズム、あのへんが一番好きです。
―― なるほど。そして騎士道精神だから、武士道につながるわけですね。
執行 当然そうです。ジョン・ミルトンの『失楽園』なんて、『葉隠』と同じです。私はそう見ています。
―― なるほど、『葉隠』と同じですか。
執行 まったく同じです。私が『葉隠』を読んでいるのと何も変わりません。
―― なるほど、面白いですね。ジョン・ミルトンの『失楽園』が。
執行 私の愛読書ですから。私は『失楽園』によって物理学も何も全部理解しました。アインシュタインとか、エンリコ・フェルミとか、ハイゼンベルクとか。彼らの量子力学は全部、『失楽園』から理解しました。
量子力学は学生の頃にだいぶ勉強しましたが、よくわかりませんでした。でも『失楽園』を熟読して、宇宙論が全部わかった。だから300年前のキリスト教の信仰者のほうが宇宙を知っているのです。
―― なるほど、面白い話ですね。
執行 ブラックホールやダークマターの本質が『失楽園』に全部書いてあります、信仰心として。それを物理学に還元できる能力が私にあったのでしょう。そうするとわかるのです。
―― なるほど、書いてあるのですね。それを物理学に還元できるかどうか。
執行 そういうことです。それは知識によるのでしょう。
―― 面白いですね。『失楽園』をそういうふうに。そのへんが先生の先生たるゆえんですね。
執行 それは比較論がないので、ちょっとわかりませんが。
―― でも塊になっていないと、「変な人」でおしまいにされてしまうわけですね。
執行 日本は、ある程度、塊でいた人を全部潰しましたから。こんな国はありません。
●嫉妬心から出る正義感が社会を壊滅させる
―― 1970年代はけっこういましたね。
執行 まだ、いました。でも全部潰した。(1967年に始まる)学校群を作るときぐらいに。名門校も全部潰しました。
―― 日比谷(高校)とか、みんな潰してしまった。
執行 それも、あの当時のことを覚えていますが、東京都の役人が。とくに日比谷高校は一番エリート意識が強いところで、明治以来の伝統があるわけです。府立一中(東京府立第一中学校)だから。そこの先生もみんな、その意識が強い。「われわれは府立一中の、最も優秀な日本の根幹になる人を育てている」と。そういう先生の魂を、社会党の議員などは「あいつらの魂をぶっ潰さなきゃならん」といっていました。これを日本の政治家がやっていたのです。
―― 愚かですよね。
執行 たしか日比谷高校の先生は、最も程度の低い不良高校と、小笠原諸島(などの遠隔地)に転勤になりました。「あいつらだけは乞食の生活をさせてやる」と、左翼の人は大手を振っていっていたのです。
―― ひどい話ですね。
執行 「名誉とか誇りとかいうやつらの魂をぶっ潰してやる」と都庁の関係者がいっ...