本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道
この講義シリーズは第2話まで
登録不要で無料視聴できます!
第1話へ
▶ この講義を再生
この講義の続きはもちろん、
6,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
農村の疲弊が全て金持ちや政府の責任とは言い切れない
本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道(7)喜んで売られていった娘さんもいた
渡部昇一(上智大学名誉教授)
昭和初期の経済苦境で、一部の青年将校の中に昭和維新を成し遂げようという気風が相当強い調子で表われてきた。しかし、農村の疲弊の責任を、すべて政府に押し付けるのもどうか。当時、田舎の娘さんたちが親の借金のかたに東京に連れられていき、返済が終わるまで働かされたが、喜んで田舎を出る娘さんたちも多かったという。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第三章・第7話。
時間:4分23秒
収録日:2014年12月22日
追加日:2015年8月24日
≪全文≫
 昭和初期の経済苦境の中で、マルクス主義は軍部の青年将校たちにも少なからず影響を及ぼしていった。

 当時の陸軍の将校は、旧制中学4年を修了したあと陸軍士官学校予科に進み、士官候補生を経て陸軍士官学校本科で学んだか、あるいは旧制中学1、2年で陸軍幼年学校に進み、そのあと同様のコースをたどって陸軍士官学校本科に入学した人たちである(大正9年〈1920〉から昭和11年〈1936〉まで)。頭脳だけでなく、身体能力も抜群に優秀だった。

 彼らは士官学校を出れば、小隊長ぐらいにはなり、20代前半ではあっても6、70人ほどの部下を持つようになる。だが、その部下たちは、典型的なところでいえば貧乏な農民の次男、三男、四男、五男であり、経済恐慌の折柄、士官学校出の青年将校たちは、部下から、自分の姉や妹が身売りをしたという話を聞くこととなった。

 彼らは頭脳も身体も優秀であったが、残念ながら、学校の狭い世界を出たばかりで世間的な智恵がない。そこで彼らの純粋な正義感に、たちまち火がつくわけである。

 農民や庶民を苦しめる地主や金持ちに加え、ろくに働きもしないで優雅な生活を送っている華族たちを亡き者にし、昭和維新を成し遂げようという気風が、一部の青年将校の中に相当強い調子で表われてきたのは、そういう理由からであった。

 だが現実を見ると、たとえば農村の疲弊の責任を、すべて政府に押し付けるのもどうかと思う。農村が頻繁に冷害や干魃に見舞われたということもあるし、何といっても子供が多すぎた。

 私が幼いときにも、田舎のよく知っている家の娘さんたちが東京に売られていった。売られるというより、親の借金のかたに東京に連れて行かれて、返済が終わるまで働かされたわけだが、実際のところは、むしろ喜んで田舎を出る娘さんたちも多かった。

 この感覚は、現代の人には理解されづらいかもしれないが、当時の実感としては、実際にそうであったとしかいいようがない。もちろん、涙を流して遊郭などに行った人も数多くいただろう。だが、自分たちがつくった米も食べられないような農村に育ち、同じような農家に嫁に行き、泥にまみれて一生働くぐらいなら、都会に出ていい着物を着られるほうがいい、と思っていた娘さんたちが、たくさんいたのも事実なのだ。

 もちろん観念的な部分では、貧乏のあまり、自分の部下の姉や妹が売られて...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
古代中国の「日常史」(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
柿沼陽平
『江戸名所図会』で歩く東京~日本橋 (1)日本橋に見る徳川家康の手腕
徳川家康と江戸の町づくりー江戸時代の「日本橋」の姿とは
堀口茉純
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(序)時代考証が語る『豊臣兄弟!』の魅力
織田家中一の武略者…『豊臣兄弟!』秀吉と秀長の知られざる実像
黒田基樹
「三国志」の世界とその魅力(1)二つの三国志
三国志の舞台、三国時代はいつの・どんな時代だったのか?
渡邉義浩
「武士の誕生」の真実(1)10世紀の東アジア情勢と「王朝国家」
武士は「お手本がない時代」だからこそ生まれた…武士誕生の真実と大唐帝国の解体
関幸彦
平安時代の歴史~「貴族道」と現代(1)日本の歴史における平安時代の意味
平安時代の意外な真実…貴族社会の華やかさの裏の激動と転換
関幸彦

人気の講義ランキングTOP10
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
ロシア人の見る「ロシアの歴史」(1)会ってみたプーチン…その実像
ロシア人の見る「ロシアの歴史」を知るとロシアがよくわかる・・・実際に会ってみたプーチンの印象とは?
上月豊久
民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教
なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景
橋爪大三郎
『万葉集』と律令社会~官僚の心得と歌宴(4)郡家の発掘と新田山を詠んだ東歌
「東歌」に刻印された奈良時代の真実とは?…地方に気をつかい地方のパワーを取り込んで中央政権はできていた
上野誠
プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(14)ポリスと魂の堕落過程〈下〉僭主の末路
僭主制は欲望の奴隷…過度の自由が過度の隷属に転換する
納富信留
数学と音楽の不思議な関係(2)リズムと数の不思議と変拍子
童歌「あんたがたどこさ」は何拍子?変拍子の不思議な魅力
中島さち子
小澤開作と満洲事変・日中戦争(1)少年時代の苦労と五族協和の夢
満洲で「五族協和」に命を懸けた小澤征爾の父・小澤開作
小澤俊夫
高齢者のフレイル・認知症とその予防対策(1)老年病科と高齢者の疾患・病態の特徴
頻尿、低栄養、転倒、誤嚥、フレイル…増える老年症候群と高齢者の疾患・病態の特徴
小川純人
オリエント 東西の戦略史と現代経営論に学ぶ(1)ビジネスのヒントは歴史にあり
『失敗の本質』、中国古典…ビジネスのヒントを歴史に学ぶ
三谷宏治
文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元
なぜ「てふてふ」が蝶々?日本語の変遷を追う…まずは万葉仮名から
釘貫亨