本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
「軍」というものの宿命ゆえに海軍内部に残ったしこり
本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道(12)「条約派」と「艦隊派」の対立という悲劇
渡部昇一(上智大学名誉教授)
1930年のロンドン海軍軍縮会議では、日本海軍の軍備が大幅に制限され、艦隊派(反対派)と条約派(条約推進派)の対立が起こった。そして、1933年とその翌年、条約派の主立った面々が予備役に回されることになり、海軍内部にしこりとして残ることになる。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第三章・第12話。
時間:5分58秒
収録日:2014年12月22日
追加日:2015年8月27日
≪全文≫
 このように、ワシントン会議からロンドン海軍軍縮会議までの約10年間で時代は大きく動き、「平和」に対する感覚もまったく変わってしまったのである。

 強硬派の加藤海軍軍令部長は直接、天皇陛下に対して帷幄上奏というかたちでロンドン海軍軍縮条約への反対を伝え、軍縮会議終了後に、政府と海軍省は兵力量の決定という海軍軍令部の権限を侵したと非難を浴びせた。そこから「統帥権干犯」問題に火がつくことになる。

 国際的な条約を結ぶ権限を持つ海軍省と、つねに作戦のことを考えている海軍軍令部との関係が、ここから一気に悪化した。

 ちなみに、ロンドン海軍軍縮会議で全権を務めた財部海相が、ロンドンに夫人を同伴したことに、艦隊派を支持していた東郷平八郎元帥が腹を立てたというエピソードがある。

 その後、海軍大臣になった岡田啓介大将、安保清種大将、大角岑生大将などは、対立する海軍軍令部と海軍省の仲を取り持つことに苦労することになる。

 東郷平八郎元帥が艦隊派を支持していたことは有名な逸話だが、それもわからないこともない。こと海軍に関しては、船の大きさや大砲の数や口径、射程距離といった性能面で戦力を比較し、戦う前から勝負がついている部分がかなりある。だから作戦や用兵を手がける人たちは、図上演習などを行なっても、どうしてもアメリカ海軍に勝てずに苦慮していたという事情もあるのだろう。東郷元帥は日露戦争で、それこそ身を削るほどの思いをしているわけだから、国を守る責任を持つ軍人として、自国ばかりが不利になるような軍縮に違和感を覚えたのであろう。

 しかし、結果論からいえば、日本海軍はそれこそ東郷元帥の有名な言葉「百発百中の砲一門は百発一中の砲百門に勝る」ではないが、訓練に次ぐ猛訓練でそのハンデを克服しようとし、ハワイ空襲の直前期においては砲撃の命中率や戦闘機などの性能、練度などにおいて、日本海軍はアメリカ海軍よりも段違いに優れていた。だから後知恵ではあるが、真珠湾奇襲などを行なわなくても、艦隊を組んで太平洋を渡ってくるアメリカ太平洋艦隊と真っ向勝負しても、日本海軍は堂々と完勝していただろうというのが、専門家の話である。だから、当時の海軍軍令部員たちはそれほど神経質になることもなかったのではないか、ともいえる。

 だが、そうもいかないのが、勝つために最善を尽くさなくてはいけない軍と...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之
本当のことがわかる昭和史《1》誰が東アジアに戦乱を呼び込んだのか(1)「客観的かつ科学的な歴史」という偽り
半藤一利氏のベストセラー『昭和史』が持つ危険な面とは?
渡部昇一
戦国大名の外交、その舞台裏(1)戦国大名という地域国家
戦国時代とは何か?意外と知らない戦国大名と国衆の関係
丸島和洋
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
戦国合戦の真実(1)兵の動員はこうして行なわれた
戦国時代の兵の動員とは?…無視できない農民の事情
中村彰彦
最初の日本列島人~3万年前の航海(1)日本への移住 3つのルート
最初の日本列島人はいつ、どうやって日本に渡ってきたのか
海部陽介

人気の講義ランキングTOP10
折口信夫が語った日本文化の核心(1)「まれびと」と日本の「おもてなし」
「まれびと」とは何か?折口信夫が考えた日本文化の根源
上野誠
編集部ラジオ2025(33)2025年を振り返る
2025年のテンミニッツ・アカデミーを振り返る
テンミニッツ・アカデミー編集部
過激化した米国~MAGA内戦と民主党の逆襲(3)DSA化した民主党と今後の展望
DSAの民主党乗っ取り工作…世代交代で大躍進の可能性
東秀敏
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(4)信長の直臣、秀吉の与力としての秀長
最初は信長の直臣として活躍――武闘派・秀長の前半生は?
黒田基樹
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
健診結果から考える健康管理・新5カ条(1)血管をより長く守ることが重要な時代
健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと
野口緑
世界哲学のすすめ(1)世界哲学プロジェクト
日本発!危機の時代に始動する世界哲学プロジェクトの意義
納富信留
経験学習を促すリーダーシップ(4)成功を振り返り、強みを伸ばす
なぜ強みが大事なのか?ドラッカー、西田幾多郎の答えは
松尾睦