本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道
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昭和初期に「威張る軍人」が初めて出てきた背景
本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道(2)「軍人さんに占領されているみたい」の真相
渡部昇一(上智大学名誉教授)
昭和10年代初頭の日本国民は皆、兵隊さんが大好きだった。ところが、国家社会主義が急速に台頭し、昭和13年に国家総動員法の成立して経済統制が本格化すると、初めて威張る軍隊が出てきた。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第三章・第2話。
時間:7分28秒
収録日:2014年12月22日
追加日:2015年8月24日
≪全文≫
 では、昭和初期は兵隊ばかりが威張る暗黒の時代だったのか。

 けっしてそうではない。軍による国家総動員体制が確立するまで、戦前の日本国民は兵隊さんが大好きだった。

 二・二六事件のときでさえ、東京の人たちは平気で外を歩いていて「兵隊さん」と声をかけていた。兵隊さんが日本人を撃つわけがないから、全然怖くなかったのだ。要するに、軍と民との関係が非常に良かったのである。

 考えてみれば、百姓の子供であっても兄弟などが軍人になっているわけだから、兵隊さんには親しみがあった。小学校の教科書にも兵隊さんの話が出ていたし、『僕は軍人大好きよ』という歌もあった。

 教室の中では日清・日露戦争の話が常に語られ、広瀬中佐や橘中佐、東郷元帥、乃木大将などの活躍について、血湧き肉躍るような口調で先生が語ってくれた。

 私が小学校に上がった昭和10年代といえば、日露戦争からまだ30余年である。いまから30年前にどのような事件があったかを思い起こしてもらえばすぐに合点がいくと思うが、日露戦争の記憶は当時の人々にとっては、つい先頃のこと。しかも、あれほどの大戦争だから、濃厚な記憶として社会に残っていた。

 それだけに、軍人が嫌いだという人は、左翼などのごく限られた人たちだけだった。特高(特別高等警察)はものすごく嫌われたが、軍人は嫌われていない。

 嫌われるようになったのはシナ事変が長引いて配給制度が始まり、その元を軍が握るようになって、軍人が民間会社の社長にまで下りてくるようになってからだ。

 なぜそうなってしまったのかについて、少し掘り下げてみたい。

 前章でも触れたように、第一次世界大戦を観戦した武官たちを中心に、兵器におけるエネルギー革命(石油の使用)や国家総力戦(トータル・ウォー)の実態を目の当たりにして、「日本は戦争ができない国になる」と大きな危機感を抱いた軍人たちが生まれた。陸軍におけるその代表的な存在が、永田鉄山や東條英機らであり、彼らは総動員体制の構築や国家社会主義について研究を重ねた。

 そしてシナ事変が始まり、物資が不足してくると、日本に国家社会主義が急速に台頭し、国家総動員法の成立(昭和13年〈1938〉)にともない、配給制度をはじめとする経済統制が本格化するようになる。そこに、軍部と同様に反政党の姿勢を持つ新官僚たちも加わり、初めて威張る...

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