本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道
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上原勇作がいなければ昭和10年代の危機はなかった?
本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道(13)陸軍大将・上原勇作という人物
渡部昇一(上智大学名誉教授)
陸軍参謀本部を創設した長州出身の山県有朋元帥の後継者は桂太郎大将で、その跡を継いだのは田中義一大将だった。彼らは長州閥だが、これに猛烈に反対したのが、のちに元帥になった上原勇作大将である。そして、彼の形成した閥の流れが、やがて皇道派と呼ばれる強大な派閥につながっていくことになる。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第三章・第13話。
時間:4分38秒
収録日:2014年12月22日
追加日:2015年8月27日
≪全文≫
 陸軍の事情は、海軍に輪をかけて大問題であった。

 明治維新後、新政府のもとで陸軍の制度をつくりあげ、陸軍参謀本部を創設し初代参謀長を務めた一番の功労者が、長州出身の山県有朋元帥である。そして山県有朋を助けて陸軍制度の整備を手がけ、大将、元帥、公爵へと上り詰めていったのが薩摩出身の大山巌元帥だが、大山元帥には薩摩出身者で派閥をつくろうという意識はなかったようである。

 ところが、山県元帥はその逆だったようだ。

 彼の後継者は桂太郎大将で、その跡を継いだのが田中義一大将だった。二人とものちに首相を務めているほど有能だった人物で、彼らは長州閥である。

 ところが、この長州閥に猛烈に対抗した人がいる。それが、のちに元帥になった上原勇作大将である。彼は日向国都城にある薩摩藩の支藩藩士の家に生まれた。上原大将のもとには陸軍内の九州出身者らが集まり、閥が形成された。武藤信義、荒木貞夫、真崎甚三郎などがそれに連なるが、やがてその流れが、皇道派と呼ばれる強大な派閥につながっていくことになる。

 上原勇作という人は、陸軍大臣、参謀総長、教育総監という、いわゆる陸軍三長官をすべて経験した人である。明治45年(1912)4月5日に第二次西園寺公望内閣(明治44年〈1911〉8月30日~大正元年〈1912〉12月21日)の陸相に就任したが、同内閣の緊縮政策に反対して二個師団の増設を要求し、それが拒否されたため陸相を辞職したことは先に紹介した通りである。陸軍は後継大臣を出さなかったため、同内閣は総辞職に追い込まれている。

 上原大将は、宇垣一成陸相が進めようとした軍縮(宇垣軍縮)にも猛反対している。宇垣陸相は、田中義一陸相のもとに陸軍次官を務めて、その跡を継ぐかたちで陸軍大臣に就任した人物である(当時中将、のちに大将)。あとで詳述するが、上原大将はそもそも宇垣陸相の就任にも反対をしている。

 私はこの上原大将と、後述する真崎甚三郎大将がいなければ、二・二六事件は起こらず、したがって昭和10年代における日本の危機もなかったと思う。

 田中義一大将から宇垣大将まで続くラインが陸軍を抑え続けていたら、また別の展開もあったかもしれない。だが昭和6年(1931)3月に起きた三月事件をきっかけに、宇垣大将はあえなく失脚してしまう。

 歴史書ではほとんど触れられていないが、こ...

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