本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
上原勇作がいなければ昭和10年代の危機はなかった?
本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道(13)陸軍大将・上原勇作という人物
渡部昇一(上智大学名誉教授)
陸軍参謀本部を創設した長州出身の山県有朋元帥の後継者は桂太郎大将で、その跡を継いだのは田中義一大将だった。彼らは長州閥だが、これに猛烈に反対したのが、のちに元帥になった上原勇作大将である。そして、彼の形成した閥の流れが、やがて皇道派と呼ばれる強大な派閥につながっていくことになる。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第三章・第13話。
時間:4分38秒
収録日:2014年12月22日
追加日:2015年8月27日
≪全文≫
 陸軍の事情は、海軍に輪をかけて大問題であった。

 明治維新後、新政府のもとで陸軍の制度をつくりあげ、陸軍参謀本部を創設し初代参謀長を務めた一番の功労者が、長州出身の山県有朋元帥である。そして山県有朋を助けて陸軍制度の整備を手がけ、大将、元帥、公爵へと上り詰めていったのが薩摩出身の大山巌元帥だが、大山元帥には薩摩出身者で派閥をつくろうという意識はなかったようである。

 ところが、山県元帥はその逆だったようだ。

 彼の後継者は桂太郎大将で、その跡を継いだのが田中義一大将だった。二人とものちに首相を務めているほど有能だった人物で、彼らは長州閥である。

 ところが、この長州閥に猛烈に対抗した人がいる。それが、のちに元帥になった上原勇作大将である。彼は日向国都城にある薩摩藩の支藩藩士の家に生まれた。上原大将のもとには陸軍内の九州出身者らが集まり、閥が形成された。武藤信義、荒木貞夫、真崎甚三郎などがそれに連なるが、やがてその流れが、皇道派と呼ばれる強大な派閥につながっていくことになる。

 上原勇作という人は、陸軍大臣、参謀総長、教育総監という、いわゆる陸軍三長官をすべて経験した人である。明治45年(1912)4月5日に第二次西園寺公望内閣(明治44年〈1911〉8月30日~大正元年〈1912〉12月21日)の陸相に就任したが、同内閣の緊縮政策に反対して二個師団の増設を要求し、それが拒否されたため陸相を辞職したことは先に紹介した通りである。陸軍は後継大臣を出さなかったため、同内閣は総辞職に追い込まれている。

 上原大将は、宇垣一成陸相が進めようとした軍縮(宇垣軍縮)にも猛反対している。宇垣陸相は、田中義一陸相のもとに陸軍次官を務めて、その跡を継ぐかたちで陸軍大臣に就任した人物である(当時中将、のちに大将)。あとで詳述するが、上原大将はそもそも宇垣陸相の就任にも反対をしている。

 私はこの上原大将と、後述する真崎甚三郎大将がいなければ、二・二六事件は起こらず、したがって昭和10年代における日本の危機もなかったと思う。

 田中義一大将から宇垣大将まで続くラインが陸軍を抑え続けていたら、また別の展開もあったかもしれない。だが昭和6年(1931)3月に起きた三月事件をきっかけに、宇垣大将はあえなく失脚してしまう。

 歴史書ではほとんど触れられていないが、こ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
古代中国の「日常史」(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
柿沼陽平
ローマ史に学ぶ戦略思考~ローマ史講座Ⅳ(1)古代の持つ意義と重み
一神教もアルファベットも貨幣も全て古代に生まれた
本村凌二
徳川将軍と江戸幕府~徳川家斉(1)家斉が長期政権を維持できた理由
11代将軍・徳川家斉が50年もの長期政権を築けた理由
山内昌之
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
『昭和16年夏の敗戦』と『昭和23年冬の暗号』
『昭和16年夏の敗戦』『昭和23年冬の暗号』が映す未来とは
猪瀬直樹
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之

人気の講義ランキングTOP10
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
徳と仏教の人生論(6)物事の本質を見極めるために
「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの
田口佳史
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
人生100年時代の「ライフシフト概論」(3)キャリアの危機〈下〉
40代前半に訪れる「中年の危機」、鍵は「人生の成長戦略」
徳岡晃一郎
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(6)習近平のレガシー
国力がピークアウトする中国…習近平のレガシーとは?
垂秀夫
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
経験学習を促すリーダーシップ(4)成功を振り返り、強みを伸ばす
なぜ強みが大事なのか?ドラッカー、西田幾多郎の答えは
松尾睦
編集部ラジオ2025(26)ソニー流!多角化経営と人材論
ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留