本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道
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当時の共産党はちっぽけな存在で恐れるに足らなかった
本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道(4)特高の取り締まり対象は左翼より右翼
歴史と社会
渡部昇一(上智大学名誉教授)
1911年、大逆事件を契機に、社会運動や思想運動を取り締まる特別高等警察が発足したが、当時の取り締まりの対象は左翼よりも右翼で、共産党そのものは非常に小さい存在だった。ところが、そのシンパが国家中枢や軍中枢に入り込み、内側から国家に打撃を与えていくことになる。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第三章・第4話。
時間:4分58秒
収録日:2014年12月22日
追加日:2015年8月24日
≪全文≫
 当時、国家に反対し、転覆しようとする社会運動ならびに思想運動を取り締まるために特高(特別高等警察)があった。これは、幸徳秋水らが明治天皇の暗殺を計画したとして逮捕・処刑された事件(大逆事件)をきっかけに、事件の翌年の明治44年(1911)に発足したものであった。

 たまたま当時の特高の首脳が書いたものを読む機会があったのだが、特高の取り締まりの対象は右翼が第一で、その次が左翼だったという。

 戦後になって、われわれには共産主義が巨大な勢力のように見え始めたが、当時は共産党そのものはちっぽけなもので、それほど恐れるに足るものではなかった。その頃、共産党の天皇制廃止という方針は国民大衆の支持を勝ち得るものではなかったし、人々の間には尼港事件のときに共産ゲリラが凄惨な虐殺を行なった記憶が残っていたから、共産主義への嫌悪感も大きかった。

 話は少し逸れるが、私は戦争中に特高に捕まり警察の取り調べ所に入れられていた親類の者に、当時の心境を尋ねたことがある。その人物から「いまと違うんだよなあ。戦争中だから、兵隊に行くと思えば・・・」という話を聞き、なるほどと思った。

 戦後になって、思想犯で逮捕されていた共産党員たちが獄中から大威張りで出てきたが、彼らが獄中にいた頃、普通の日本男児は軍隊に行き、敵弾が飛んでくる戦場で、もっと大変な目に遭っていた。いまの人にはわからないかもしれないが、戦争中はたとえ監獄に入れられても、「軍隊に入ると思えば我慢できた」のである。その話を聞いて私は、健康な青年や壮年者が共産党員として監獄に入ったことは勲章になどなる話ではないと、しみじみ痛感した。

 もう一つ、彼の話で印象的だったのは、裁判に対する絶対的な信用があることだった。彼は「いま、自分は警察で調べられているからこういう仕打ちを受けるのだ。警察は政府の手先だ」と思っていたが、大日本帝国憲法の57条に「司法権は天皇の名に於て法律に依り裁判所之を行ふ」とある通り、裁判官は天皇の代理だから、「裁判になれば絶対無罪になると信じていた」というのだ。当時の思想状況には、そういう側面もあった。

 いずれにせよ、真っ向から国家転覆と皇室廃止を謳う共産党は、特高の主要な取り締まり対象であったが、当時、組織の内偵もかなり進んでいて、政府としても、まったく怖い存在ではなかったらしい。

 事...

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