本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道
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五・一五事件…青年将校を死刑にしなかったのは最大の失敗
本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道(18)そして減刑嘆願書が山積みにされた 
歴史と社会
渡部昇一(上智大学名誉教授)
1932年の五・一五事件で、首相を殺した犯人さえ死刑にしなかったことは、日本政府の最大の失敗であった。そして、犯人たちに多くの同情が集まり、軽い処分しか下されなかったことが、さらに二・二六事件、そしてその後の危機を招く大きな要因となっていく。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第三章・第18話。
時間:5分48秒
収録日:2014年12月22日
追加日:2015年8月27日
≪全文≫
 五・一五事件は、現役の軍人が首相を白昼ピストルで殺害するという前代未聞の事件であり、軍隊が暴走し、本物の暴力によって犠牲者が出たクーデターであった。

 事件後、海軍および陸軍でそれぞれ軍事裁判が行なわれたが、陸軍のほうは昭和8年(1933)9月に11名に対して禁錮4年の判決が出ている。海軍の軍法会議では、主犯格の古賀中尉ら3人に死刑が求刑されたものの、判決では禁錮15~13年になるなど、刑が大幅に軽減された。

 これには、海軍兵学校の卒業生やクラスメートが、青年将校たちのために助命運動を起こし、嘆願書を出したことが背景にある。また、当時の国民の多くが苦しい生活を強いられていた中で、満洲事変が成功したにもかかわらず、アメリカがたびたび横槍を入れ、日本を敵対視するような姿勢を見せていたことに、国民が怒っていたという事情も大きい。

 当時の雑誌の写真にも写っているが、裁判官の机の上には全国から寄せられた減刑の嘆願書が山積みにされていた。被告人たちはクーデターを起こして首相を殺しているにもかかわらずである。

 軍法会議を行なうにあたり、海軍では東郷元帥にもお伺いを立てていた。東郷元帥の意見は、「動機などを問う必要はなし。厳罰に処して可なり」というもので、きわめて理路整然としていた。検察官も理路整然としていて、これは海軍刑法の反乱罪に該当するため、首謀者は死刑が相当であると主張した。ところが裁判官が、被告人たちの減刑を求める強い世論に流されてしまったばかりか、主犯格3名に対して死刑の求刑を行なった法務局長も、辞表提出を余儀なくされてしまったのである。

 しかしどう考えても、五・一五事件において首相を殺した犯人さえ死刑にしなかったことは、日本政府の最大の失敗であった。

 五・一五事件に対する甘い処断で思い起こすのは、主君・浅野内匠頭長矩の仇を討つために吉良邸に討ち入りをした赤穂浪士に対する処分である。この処分も、江戸幕府にとって相当悩ましいものであった。

 吉良邸に討ち入った47人(46人ともいわれる)は全員が死罪になったが、斬首ではなく切腹を命じられているから、幕府も一応は情状を酌量したのだろう。当時の江戸幕府の役人たちは、武士道における一点の名誉を重んじながらも、法の支配を貫徹させたのであって、私は昭和の軍部にもそういう考え方が必要だったのではな...

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