本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
昭和初期に「威張る軍人」が初めて出てきた背景
第2話へ進む
五・一五事件は2年前にすでに予告されていた!?
本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道(1)若者に歌い継がれた『青年日本の歌』 
渡部昇一(上智大学名誉教授)
1932年の五・一五事件の中心人物となる海軍の三上卓中尉が、事件の2年前に作詞・作曲した『青年日本の歌』という歌がある。犬養毅首相を殺害した三上中尉ら被告人たちに国民から数多くの減刑の嘆願書が寄せられたが、三上中尉がつくったこの歌詞が広く国民に受け入れられていったエピソードは、いかに一般国民までが当時の政治に批判的で、青年将校たちに同情的であったかを象徴する。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第三章・第1話。
時間:4分54秒
収録日:2014年12月22日
追加日:2015年8月24日
≪全文≫
 犬養毅首相を首相官邸で殺害するという五・一五事件の中心人物となる海軍の三上卓中尉が、事件の二年前の昭和5年(1930)に作詞・作曲した『青年日本の歌』という歌がある。『昭和維新の歌』とも呼ばれることのある曲である。

 この歌は、私の年代では知らない人はほとんどいないと思う。中学の先輩たちが「学校では歌っちゃいけないよ」と注意しながら、後輩たちにこの歌を教えていた。

 私たちが中学生の頃は、皆が秘かにこの歌を歌っていた。なかでも印象深いのは2番の歌詞である。

 「権門」とは、「位が高く権勢のある家柄」(『大辞林』)のことである。昭和初期には元公家や元大名などの華族で公爵や侯爵、伯爵、子爵、男爵といった爵位を持っている家が数多くあった。現在に比べて貧富の差も大きい時代でもあり、庶民から見れば彼らは裕福な生活をしていた。そして政党政治は、とかく利権誘導や、反対党追い落としのための政争ばかりを繰り返しているようにも見えた。

 また経済の面でも、第一次大戦で財閥が大儲けし、多数の成金を生んだあと、第一次大戦後にあれほどの不景気になったにもかかわらず、井上準之助元蔵相は金解禁を行なった。不景気のときに緊縮政策を行なうという、まったく逆のことをやってしまったのである。そのため貧しい者がさらに貧しくなり、財閥だけが儲かる世の中になったように感じられた。

 「財閥富を誇れども 社稷(国家)を念ふ心なし」という歌詞が、当時の中学生の胸にも響いたのは、そういう時代状況の中でのことであった。

 五・一五事件では、犬養首相を殺害した三上中尉ら被告人たちに国民から数多くの減刑の嘆願書が寄せられた。三上中尉がつくったこの歌詞が広く国民に受け入れられていったエピソードは、いかに一般国民までが当時の政治に批判的で、青年将校たちに同情的であったかを象徴している。

 そして4番の歌詞には「昭和維新」という言葉が出てくる。幕末の時代も非常に世が乱れていた。大名や豪商は威張っていたのに、庶民は苦しみ、黒船が来航してから日本は外国からなめられた。そこで明治維新では下級武士たちが立ち上がったのである。青年将校たちは「自分たちこそ、その下級武士の再来である」という気概を抱いていた。

 10番の歌詞の最後は明らかに暴力革命である。結局のところ、この『青年日本の歌』に表われているのは、君...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
『昭和16年夏の敗戦』と『昭和23年冬の暗号』
『昭和16年夏の敗戦』『昭和23年冬の暗号』が映す未来とは
猪瀬直樹
イスラエルの歴史、民族の離散と迫害(1)前編
古代イスラエルの歴史…メサイア信仰とユダヤ人の離散
島田晴雄
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
古代中国の「日常史」(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
柿沼陽平
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之
モンゴル帝国の世界史(1)日本の世界史教育の大問題
なぜ日本の「世界史」はいびつなのか…東洋史と西洋史の違い
宮脇淳子

人気の講義ランキングTOP10
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(2)戦争省とチャーリー・カーク暗殺事件
チャーリー・カーク暗殺事件とは?その真相と政権への影響
東秀敏
編集部ラジオ2025(26)ソニー流!多角化経営と人材論
ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
組織心理学~「不満」を生かす(1)不満・相談・予防
職場への不満は6割以上~ポイントは隠蔽、心理的安全性…
山浦一保
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
水野道訓
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
経験学習を促すリーダーシップ(4)成功を振り返り、強みを伸ばす
なぜ強みが大事なのか?ドラッカー、西田幾多郎の答えは
松尾睦
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ