本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道
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本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道(10)派閥意識が少なかった「薩の海軍」
渡部昇一(上智大学名誉教授)
明治時代に海軍大将になった人は、皇族は別として14人中13人が薩摩出身、海軍中将も72人のうち29人が薩摩の出身者で、当時の海軍は「薩の海軍」といわれるほど薩摩閥の全盛時代だった。しかし、薩摩の人たちには、派閥意識がそれほどなかったという。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第三章・第10話。
時間:6分06秒
収録日:2014年12月22日
追加日:2015年8月27日
≪全文≫
 海軍のほうから見ていこう。

 さすがに草創期は「薩の海軍」といわれただけあって、明治時代に海軍大将になった人は、皇族は別として、14人中13人が薩摩出身だった。当時はいわゆる薩閥が幅を利かせていて、明治時代に薩摩出身者以外で唯一海軍大将になったのが、会津出身の出羽重遠である。海軍中将も72人のうち29人、すなわち約40%が薩摩の出身者だった。

 とくに権力を振るったのは、「薩の海軍」の頭領といわれた山本権兵衛である。

 山本権兵衛は主に陸にいて、海軍軍政の中心として活躍したあと、海軍大臣も歴任し、日露戦争に間に合うように海軍をつくりあげた。海の上でも東郷平八郎という薩摩出身の大英雄が出たから、当時の海軍は薩摩閥の全盛時代だったといってもおかしくはなかった。

 ところが日露戦争の日本海海戦で日本海軍がロシアのバルチック艦隊を破って以来、海軍の人気がさらに高まった。海軍兵学校の生徒になれば、当時の青年たちの憧れだった短剣を吊ることができ、兵学校を卒業して海軍士官候補生になると、練習艦に乗って遠洋航海に出て、ヨーロッパにも行くことができた。そのため、海軍兵学校の入学試験が非常に難しくなった。

 そうなると、兵学校生徒たちは薩摩出身者だけでもなくなっていく。当時は日本男子の1割しか旧制中学に行けなかった時代だったが、その旧制中学で1番から3番以内に入っているような人でなければ、海軍兵学校には絶対に受からないような状況であったことは、第一章で述べた通りだ。

 もう一つ重要なのは、薩摩の人たちには、派閥意識がそれほどなかったということだ。たとえば薩摩閥の中心人物だった大久保利通は、自分の後継者に長州出身の伊藤博文を選んでいる。また、西郷隆盛がいくら人気のある人物だったからといって、彼の従弟の大山巌のように、晩年、西郷が薩摩に帰郷したとき、行動をともにしなかった人も少なからずいた。

 してみると、たまたま薩摩藩と長州藩の出身者が中心になって明治維新を起こしたものの、薩摩の人たちは元来、それほど閥にこだわらないところがあったのではないかと思われる。

 日本海海戦で第一艦隊兼連合艦隊参謀長を務めた島村速雄大佐(のち大将、没後元帥)は高知県出身である。日本海海戦に先立ちロシアのバルチック艦隊の行動がわからなくなったとき、連合艦隊司令部の中で「艦隊を津軽海峡...

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