本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道
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こんな悪い社会にした連中を殺しても、やむを得ない
本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道(6)天才・高橋是清の貢献も時すでに遅し
歴史と社会
渡部昇一(上智大学名誉教授)
1931年、イギリスが再び金本位制をやめ、北欧諸国もそれに続いたが、井上準之助蔵相はこの期に及んでも金本位制を固守し、財閥系銀行は大規模な円売りドル買いで利益を得、日本国内では「財閥ばかりが暴利をむさぼっている」と批判が高まった。後に高橋是清蔵相が金輸出を禁止し、不況からの脱出を果たしたが、時すでに遅しという状況だった。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第三章・第6話。
時間:2分23秒
収録日:2014年12月22日
追加日:2015年8月24日
≪全文≫
 加えて、当時の財閥系の銀行が、経済危機をリスクヘッジするために、為替取引を行なったことがまた、大きな批判の対象となる。

 不況が長引いていたため、昭和6年(1931)にイギリスが再び金本位制をやめ、北欧諸国やアルゼンチン、オーストリアもそれに続いた。だが、井上準之助蔵相はこの期に及んでも金本位制を固守し続けた。これは明らかに無理のあることだった。普通のビジネスマンであれば、円相場が高くなると読むのが普通である。それがわかっている財閥系の銀行は大規模な「円売り、ドル買い」を行なって、利益を得た。

 これはごく当たり前の経済行為である。だが、日本国内では、「貧しい人は不況で苦しんでいる中で、財閥ばかりが暴利をむさぼっている」と批判が高まった。

 社会主義には、人々の妬み嫉みの劣情をかき立てることで社会不安を煽り、自分たちの勢力拡張を実現しようとする下卑た性質がある。現在の左翼勢力や左翼系メディアも相変わらず同じ論法を繰り返しているが、昭和初期には、日本経済が大変な苦境に落ち込んでいたために、この手法の効果は絶大なものとなった。「金持ちはけしからん」「社会を不景気にしたのは金持ちたちだ」「われわれは搾取されている」という雰囲気が、社会を暗く覆い尽くしていったのである。本当は金持ちの責任だとは言い切れないにもかかわらず、「こんな悪い社会にした連中を殺しても、やむをえない」という雰囲気さえ、社会に蔓延していった。

 実際には、高橋是清という天才が、井上準之助蔵相の後に蔵相となり(犬養毅内閣:昭和6年〈1931〉12月13日~7年〈1932〉5月26日)、金輸出を禁止し、積極的な金融緩和政策と財政政策を推し進めたことで、日本は世界で最も早く不況からの脱出を果たした。日本の民衆を苦しめた経済状況が資本主義のせいでも、資本家のせいでもなかったことが事実として明らかになったわけだが、時すでに遅かった。経済の好転が波及し、目に見えたものとなるまでは、どうしても時間がかかるものだが、すでに情勢はそれを待つことを許さないまでになっていたのである。

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