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DATE/ 2017.04.22

人口減少期に求められる「働き方改革」とは?

 あまりにも急速に進んでしまった少子高齢化。時計の針を巻き戻すことができない以上、人口変化に伴う新しい方法がビジネスをはじめ社会全体に求められています。とても難しい課題ですが、「人口ボーナス」と「人口オーナス」という概念を使えば、今の日本の課題はクリアに見えてきます。そのように主張しているのが、産業競争力会議の民間議員も務めつつ、働き方改革のコンサルティングを手掛ける株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏です。

お年寄り一人を二人強で支えなければならない現状

 「平成28年版高齢社会白書」によると、高齢者(65歳以上)一人当たりの生産年齢(15~64歳)人口は、2015年2.3、2020年2.0と推計されています。この数値は、一人の高齢者を支えるのにどれだけの現役世代がいるのかを表したもの。ちなみに50年前の1965年は10.8、30年前の1985年は6.6の数値が出ています。50年前と比べると、負担はなんと5倍近く、30年前と比べても3倍近くに上ります。年金・医療・介護などの社会負担増が重く感じるのも無理はありません。

 医療・介護の進歩に伴って、今後も高齢化率は上昇を続けるため、2060年には一人の高齢者に対して現役世代1.3人という予測が出されています。避けられないこのシナリオに対して、役立つのが「人口ボーナス期・オーナス期」を比較する考え方だと小室氏は言います。

人口ボーナス・人口オーナスとは?

 「人口ボーナス期・オーナス期」とは、ハーバード大学のデビッド・ブルーム氏の提唱したもので、人口がその国にボーナスをくれる状況を「ボーナス期」と呼びます。日本でいえば1960年代から90年代半ばがこの時期に当たりました。しかし、もうその時期は終わりを告げ、二度と戻ってはきません。そのかわりに現在の日本が突入しているのは「オーナス期」です。

 「オーナス」とは負担や負荷を意味する言葉で、「人口オーナス期」とは人口構造が国の経済に重荷になる状況を指します。労働力人口が減るため、働く世代が引退世代を支えるという社会保障制度の維持が困難になってきているのです。日本は90年代半ばが転換期でしたが、今ちょうどその変わり目にあるのが中国。すでに一人っ子政策は撤廃され、日々の新聞にこれらの見出しが躍っているそうです。
 

今、必要な政策のポイントとは?

 ボーナス期からオーナス期への転換は歴史的必然。しかし、欧米などと比べても、日本の進み方は早すぎました。その理由は何だったのでしょう?

 ボーナス期特有の「男性だけ・長時間・同一条件で」働くというルールにより、子どもを持つ女性が戦力外とみなされてきたことが大きな要因です。働き続けたい女性は子どもを持たないどころか婚期も遅らせ、結果的に少子化が非常な勢いで進むことになったからです。

 まさに渦中の人口減少期における政策のポイントの一つは「真に有効な少子化対策」。そして、少子化対策のポイントは「男性の働き方改革」にこそある、と小室氏は語ります。せっかく第一子に恵まれても、夫が育児に参加してくれないと、二人目以降を持つ期になれないという発言には、経験者としての実感もこもります。男性の働き方が変わらない限り、安心して子育てをしながら働ける環境が望めないということで、「働き方改革」はアベノミクスの大きな目玉となったのです。

今がラストチャンス!

 人口減少期にふさわしい働き方のルールは、「男女フル活用」「短時間労働」「多様な条件の人をそろえる」の三つ。高度成長期とは180度違う方針へと、早く切り替えた企業が優秀な人材に選ばれます。そのためには、どれだけ女性が活躍できる企業なのかが大きなアピール・ポイントとなるでしょう。育児休業以上に介護休業が危ぶまれる現在、さまざまな家庭の事情と仕事を両立させるには、短時間でフレキシブルに働ける職場が欠かせません。

 そして、ボーナス時代のルールからオーナスのルールへと、乗り換えるタイムリミットは、残りわずか1~2年であることを小室氏は強く訴えています。団塊ジュニア世代の女性がまだ出産期にいるのはこの数年だからです。つまり、企業は今まさに、生き残りのための戦略切り替えが求められているのです。
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授