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AIの世界で「眼の誕生」が持つ意味
「カンブリア爆発」という言葉をお聞きになったことがあると思います。古生代カンブリア紀、およそ5億4200万年前から5億3000万年前という比較的短期間に、今見られる生物種のほぼ全てが出そろった現象を指すのですが、その爆発的な生物多様性の出現の理由として挙げられている一つが、高度な眼を持つ三葉虫の存在があります。高精度の眼を持った生物が圧倒的サバイバル戦略を駆使して、進化していったのです。
実は、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻特任准教授・松尾豊氏によれば、AI、機械やロボットの世界でもこのカンブリア爆発が起こると考えられるのです。もちろんその原因は「眼」にあります。
今まで見えなくてもすむ作業しか機械に任せられなかったところ、この「眼の誕生」によって、見る必要のある、見て判断して作業を進める必要のある複雑な仕事を任せられるようになったのです。
その第一ステージは、ある特定作業の自動化段階。農業であれば、たとえばトマトや果物の収穫をロボットが自動で行うということです。これらの作物は、稲やじゃがいもなどと違って根こそぎ収穫というわけにはいきません。木を残して実だけを収穫するという、一見単純だけれども、見て収穫すべきものを識別・判断する能力がなければできない作業です。
この基本作業を任せられる収穫ロボットが普及すれば、そこにサイズや形状、品質、病気の有無などを判断する機能を追加するのは簡単だ、と松尾氏は言います。この新たな機能やサービスの追加ができれば、そこに課金してビジネスモデルに移行という段階に入ります。
次の段階では、ロボットによるトマト畑全体の栽培管理を可能にしていきます。ロボットが天候や気温に応じて、水の量を調節したり、土のコンディションをチェックしたりして、畑全体の栽培~収穫コントロールを行うのです。いよいよ場の全体管理を担うロボットプラットフォームの実現段階です。もちろん、このようなAIのプラットフォーム化は、トマト畑のみならず農業全体、また、建設分野や食品加工分野など、さまざまな分野で可能となります。工場全体をロボットが管理したり、飲食店のバックヤードは全て機械がとりしきる、こんな光景が見られるようになるということです。
いままでデジタル技術の世界では、とかく日本は言語の壁のせいでグローバル競争では遅れをとっていました。しかし、優れた「眼の技術」と日本の強みであるものづくりの技術を組み合わせて、機械・ロボットに一体化させれば、日本が世界のプラットフォームを握ることも可能になってくる、と松尾氏はその展望を語ります。「眼の誕生」がもたらすAI新世紀のカンブリア爆発が日本を起点に広がっていくことに期待が高まります。
実は、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻特任准教授・松尾豊氏によれば、AI、機械やロボットの世界でもこのカンブリア爆発が起こると考えられるのです。もちろんその原因は「眼」にあります。
「眼の誕生」が持つ意味
ディープラーニングの画像認識技術の進化によって、機械やロボットも「眼が見える」ようになりました。「今までだって高性能のカメラを搭載したいわば“眼を持つ機械・ロボット”はたくさんあったじゃないか」と思ってしまいますが、「見る」とは網膜と脳の後ろの方にある視覚野が働くことで可能になってきます。つまり、カメラとディープラーニング技術が組み合わさって、初めてAIは「眼を持つ」と言えるのです。今まで見えなくてもすむ作業しか機械に任せられなかったところ、この「眼の誕生」によって、見る必要のある、見て判断して作業を進める必要のある複雑な仕事を任せられるようになったのです。
機械・ロボットに任せる作業の発展シナリオ
さまざまな分野で、機械・ロボットによる作業の自動化が可能になるということは、AIによる産業という新分野の誕生にも貢献するわけで、松尾氏は既にいろいろな現場を見学したり話を聞いたりしながら、AI産業、もしくはディープラーニング産業の展開シナリオを描いています。その第一ステージは、ある特定作業の自動化段階。農業であれば、たとえばトマトや果物の収穫をロボットが自動で行うということです。これらの作物は、稲やじゃがいもなどと違って根こそぎ収穫というわけにはいきません。木を残して実だけを収穫するという、一見単純だけれども、見て収穫すべきものを識別・判断する能力がなければできない作業です。
この基本作業を任せられる収穫ロボットが普及すれば、そこにサイズや形状、品質、病気の有無などを判断する機能を追加するのは簡単だ、と松尾氏は言います。この新たな機能やサービスの追加ができれば、そこに課金してビジネスモデルに移行という段階に入ります。
次の段階では、ロボットによるトマト畑全体の栽培管理を可能にしていきます。ロボットが天候や気温に応じて、水の量を調節したり、土のコンディションをチェックしたりして、畑全体の栽培~収穫コントロールを行うのです。いよいよ場の全体管理を担うロボットプラットフォームの実現段階です。もちろん、このようなAIのプラットフォーム化は、トマト畑のみならず農業全体、また、建設分野や食品加工分野など、さまざまな分野で可能となります。工場全体をロボットが管理したり、飲食店のバックヤードは全て機械がとりしきる、こんな光景が見られるようになるということです。
ロボットプラットフォームのグローバル展開へ
松尾氏のシナリオはさらにグローバル展開にまで広がります。日本の高品質のトマト栽培ロボットプラットフォームを海外に輸出する段階です。これまではいくら優れた技術があっても、日本人特有の勤勉性、きめ細やかさまでは技術と一緒に輸出するというわけにはいきませんでした。徹底した現地での指導、人材育成といった手間もコストもかけることが必要だったのですが、AIはそれこそディープラーニングで習熟していきますから、高レベルの技術を日本発信で世界に売り出すことが可能になるのです。いままでデジタル技術の世界では、とかく日本は言語の壁のせいでグローバル競争では遅れをとっていました。しかし、優れた「眼の技術」と日本の強みであるものづくりの技術を組み合わせて、機械・ロボットに一体化させれば、日本が世界のプラットフォームを握ることも可能になってくる、と松尾氏はその展望を語ります。「眼の誕生」がもたらすAI新世紀のカンブリア爆発が日本を起点に広がっていくことに期待が高まります。
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