テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.05.31

「教養」を身につけるための3つのポイント

 人生100年時代と言われる今、生涯教育、つまり一生を通して学び続けることの意味が問われる機会も増えてきました。生涯教育といっても、それはなにも専門性をもった分野を追究することとは限りません。いわゆる「教養」と言われるものを身につけるのも、その第一歩と言えるのではないでしょうか。

 しかし、改めて「教養を身につけるには」と考えるとどうしたらよいのか迷ってしまいます。そのような疑問に、東京大学名誉教授の本村凌二氏がアドバイスを送ります。

一つ目のポイントは「世界史を学ぶ」

 2018年3月で定年退職された本村氏は、35年近く古代ローマ史を専門として、大学で教鞭をとってきましたが、今まで勤めてきた大学では、いずれも「教養学部」と名前のつくところで教えてきたそうです。

 「教養」と深く関わってきた本村氏が、教養を身につけるために一番大切と考えるポイントは三つ。その一つ目が世界史です。高校の授業では、世界史、日本史と区別しているかもしれませんが、ここで本村氏が「世界史」というのは、日本史も含めた人類の歴史全体のこと、人類が経験してきたことの集積としての歴史です。

 一人の人間が自分の経験として実感できることは、親世代の経験を多少含んだとしてもたかだか100年程度。しかし、歴史に学べば5000年以上にわたる文明から数限りない知恵を手にすることができます。いわば、歴史は人類の偉大な教科書というわけで、その意味において、世界史は教養の非常に重要なファクターだと本村氏は断言します。

古今東西、さまざまな古典を読む

 二つ目のポイントは古典を読むこと。古典というと、ギリシャ、ローマの哲学者や歴史家の書物や中国の『史記』『三国志』、あるいは平安時代の王朝文学を思い浮かべるかもしれません。しかし、本村氏は20世紀には20世紀なりの、19世紀には19世紀の古典があると言います。古代ギリシャの一大叙事詩『オデュッセイア』やイギリス・ルネサンスを代表する16世紀のシェイクスピア作品だけでなく、19世紀の『戦争と平和』や『カラマーゾフの兄弟』のように、多くの人によって長いこと読み継がれてきたものは、どれも「古典」としての価値を持っているのです。

 また、古典とは文学作品に限るものではなく、その一例として本村氏はマルクスの『資本論』を挙げます。そのすべての主張に賛成するわけではないが、資本主義社会の構造分析をするにあたって、古典的名著であることに違いないと言います。そのように考えると、国民国家のあり方を考えるうえで欠かせないホッブスの『リヴァイアサン』、戦争を政治的戦略の観点から論じたクラウゼヴィッツの『戦争論』なども、文学とは毛色の異なる「古典」的名著と言えそうです。

仕上げは「雑学のすすめ」

 生涯教育を目指し、教養を身につけるための最後のポイントとして本村氏が示すのは「雑学」のすすめ。何度も同じことを繰り返してレベルアップしていく運動や楽器の練習とは違って、こと学びに関しては視野を広げないと山の高みには登れないというわけです。私たちは、学問をしようという時、えてして特定の分野に限ってそこだけに集中すればよいと考えがちです。ですが、本村氏は知的作業のすそ野を広げて、関連した学問や教養を雑学的に身につけることこそが、高みにのぼっていく秘訣なのだと言います。

 実は本村氏は専門の古代ローマ史関連の著作だけではなく、昭和の大スター石原裕次郎や趣味である競馬を素材に『裕次郎』『馬の世界史』といった本も書いています。いずれも歴史家の目を通して綴ったもので、単に知識として「へぇ、そんなこともあったんだ」と感心させるレベルで終わらせない、まさに雑学の王道の一つのあり方だと思います。

 こうしてみると、歴史や古典を通して学んだことが、さまざまな分野で結びつき、意外な関係線をひいて新たな知的発見につながるのではないかと思います。いわば、知識を真の教養に高めてくれるのが、世界史、古典、雑学だと言えるのではないでしょうか。生涯教育の醍醐味を味わうためにも、この三つを心にとめておきましょう。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「見せかけの相関」か否か…コロナ禍の補助金と病院の関係

「見せかけの相関」か否か…コロナ禍の補助金と病院の関係

会計検査から見えてくる日本政治の実態(2)病床確保と補助金の現実

コロナ禍において一つの大きな課題となっていたのが、感染者のための病床確保だ。そのための補助金がコロナ患者の受け入れ病院に支給されていたが、はたしてその額や運用は適正だったのか。事後的な分析で明らかになるその実態...
収録日:2025/04/14
追加日:2025/07/18
田中弥生
東京大学客員教授
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際

胆のうの病気~続・がんと治療の基礎知識(1)胆のうの役割と胆石治療

消化にとって重要な臓器「胆のう」。この胆のうにはどのような仕組みがあり、どのような病気になる可能性があるのだろうか。その機能、役割についてあまり知る機会のない胆のう。「サイレントストーン」とも呼ばれる、見つけづ...
収録日:2024/07/19
追加日:2025/07/14
糸井隆夫
東京医科大学病院 消化器内科 主任教授
4

3300万票も獲得した民主党政権がなぜ失敗?…その理由

3300万票も獲得した民主党政権がなぜ失敗?…その理由

政治学講座~選挙をどう見るべきか(5)政権交代と民主党

民主党は、2009年の衆議院選挙で過半数の議席を獲得し、政権交代に成功した。しかし、その後の政権運営に失敗してしまった。その理由についてはいまだ十分な反省が行われていないという。ではなぜ民主党は失敗してしまったのか...
収録日:2019/08/23
追加日:2020/02/12
曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
5

印象派を世に広めたモネ《印象、日の出》、当時の評価額は

印象派を世に広めたモネ《印象、日の出》、当時の評価額は

作風と評論からみた印象派の画期性と発展(2)モネ《印象、日の出》の価値

第1回印象派展で話題となっていたセザンヌ。そのセザンヌと双璧をなすインパクトを与えた作品があった。それがモネの《印象、日の出》である。印象派の発展において重要な役割を果たした本作品をめぐる歴史的議論や当時の市況を...
収録日:2023/12/28
追加日:2025/07/17
安井裕雄
三菱一号館美術館 上席学芸員