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DATE/ 2018.06.12

高齢労働者を活かす環境作りが日本を元気にする

 肌はつやつや、杖などたよりにせず歩き方もしっかりとしたお年寄が年齢を聞かれて「85歳です」「今度の誕生日で90になります」と答えると、「えーっ!」と驚きと称賛の声があがる。テレビの「健康長寿」をテーマにした番組でよく目にするパターンです。この元気な健康長寿の方々には、なんらかの農作業を現役でしている人が多いことにお気づきでしょうか。実は、この現象はれっきとしたデータに裏打ちされているのです。

農業に従事する人にはピンピンコロリが多いという事実

 この農業従事者に元気な高齢者が多いという研究結果を紹介してくれるのは、一般財団法人日本予防医学協会理事長の神代雅晴氏。「産業保健」の観点から、少子高齢社会における高齢者の労働問題に取り組んでいます。産業保健とは少々耳慣れない言葉かもしれませんが、神代氏は「働く人々の健康を守り、働く人々の生きがいや労働生産性の向上を図ることを目的とした活動」であると説明しています。人生100年時代、いろいろな意味で「働く」ということと「健康である」ということは切っても切れない関係になってきていますから、現代日本にとって産業保健は非常に重要なキーワードといえるでしょう。

 その神代氏がさまざまな文献にあたって調べてみたところによると、農業を行っている人は農作業を全くしていない人に比べて、糖尿病や高脂血症といった生活習慣病の危険因子の保有率が低い傾向にあることが分かりました。特に自営農家では健康で長期にわたって農作業を行い、亡くなるまで長く寝込むことが少ない。いわゆる「ピンピンコロリ」が特徴である、という研究報告もあるのだそうです。

長寿王国・日本の課題は「健康寿命」

 実は、この人生の終盤において、いかに元気にすごせるかが長寿王国・日本が抱える大きな課題なのです。その課題のポイントとなるのが、「健康寿命」。日本では、健康寿命とは「日常生活の制限がない」「自分が健康であると自覚している」「要介護ではない」の三条件を満たしている状態であるとされているのですが、2013年の平均寿命と健康寿命の差を見てみると、男性は9.02歳、女性にいたってはなんと14.4歳ものひらきがあるのです。つまり、人生の最終期に多くの高齢者が、何らかの身体的な不具合な状態に陥っているということ。最悪の場合は、寝たきりで10年以上を過ごす人もかなり多いということです。

場と環境を整え高齢労働者を増やす、活かす

 神代氏は、健康寿命には主観的な健康感が非常に大きな役割を果たしているという点を指摘します。さらにその健康感は「生きがい」と「社会参画」、すなわち働くことによって社会に参加することが、健康寿命延伸の重要な鍵だと説いています。

 「働く」ことへの意欲や満足感は、仕事内容だけで成り立っているのではありません。その場、環境が大きく作用するとも考えられます。冒頭でご紹介した農作業に従事する高齢者の健康寿命が長いというのも、煩わしい人間関係が少ない、外気や陽の光を浴びて働く、自分のしたことが作物という目に見える成果物として確認できる等々、環境要因の点からある程度、説明できそうです。

 少子高齢化に伴い、高齢者の割合の増加とともに生産年齢人口の減少が重大視されています。その点からも、農業に限らずさまざまな分野で、高齢者が働くことのできる場と環境を創造し、整えることが現代日本にとって急務なのだと神代氏は警鐘を鳴らします。幸いなことに、日本では現在仕事をしている高齢者の4割が、働けるうちはいつまでも働きたいと考えており、非常に働く意欲は高いと言われています。外食産業で、人生経験豊かな高齢者ならではの接客術を生かしているとか、量販店の開店前の品出しにシルバーパワーを活用しているなど、従来の枠組みとは異なる高齢労働者受け入れの動きが活発化しています。

 このように生涯現役を地でいく高齢者を見るにつけ、健康寿命と平均寿命の差が縮まるだけでなく、日本全体の幸福度もあがってくる。こんな将来像を期待したくなってきます。
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