社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
日本の物価はなぜ上がらないのか?
2018年4月から、さまざまな商品やサービス、保険料や公共料金の値上げが続いています。生活者にとっては痛いことこの上ないのですが、それでも日銀は目標のインフレ率2パーセントを達成できず、金融政策の成果が見えないとしています。抜本的な景気回復の一つの指標として、この消費者物価の上昇が取沙汰されるわけですが、ではなぜ、日本の物価は思うように上がっていかないのでしょうか。
日本では0.2パーセントしか上がっていないのに、アメリカでは3パーセントものアップ。特に病院サービスのカテゴリーでの日米の差が大きいのです。これは、アメリカが基本的に自由診療の国だからにほかなりません。日本は公定価格の診療報酬で統制がきいており、それは医療分野だけでなく大学の授業料についても同様です。それに対してアメリカでは、非常に多くの分野の価格が市場メカニズムのなかで機能しているのです。
金融政策とは、つまるところこうした社会の構造問題に根差しています。小黒氏はこのことを指摘し、日本も今後、保険適用と保険外の自費負担を組み合わせた混合医療や、混合保育、混合介護などを広げていくべきだと説いています。
大規模金融緩和政策の影響も看過できませんが、もっとも重要なのは政府と日銀の関係であり、小黒氏はそれを「政府が親会社、日銀が子会社」という関係のようだと説明します。
日銀がやっているのは金融政策であって財政政策でないため、日銀が親会社、すなわち日本政府の国債を買っても親と子を連結して見た場合、債務は減りません。ですから、政府は消費税アップを初めとする課税政策でなんとか事態を打開しようとしているのですが、消費増税先送りなどその歩調は順調とはいえないのが現状です。
たとえば、日銀が金融政策として400兆円の国債を買ったとしても、金融政策はあくまでも等価交換であり、政府の債務が400兆円分減ることにはならないというわけです。
こうした全体の流れを見れば、民間銀行は私たちが預けたお金から国債を購入し、準備は民間銀行の資産だけが日銀に預けられることとなる。日銀はそれを使って国債を買うという構図になり、結局これは日銀が持つ国債も、民間銀行がもつ国債もすべて私たちの預金で支えられているということになるのです。
こうしてみると、物価が適正に上がっていくには、社会構造だけでなく、日本全体のお財布の構造改革が必要なのではないかと思えてきます。
社会構造の違いを浮き彫りにする日米CPI比較
法政大学経済学部教授の小黒一正氏はその要因の一つのヒントとして、日米の消費者物価指数(CPI)の比較を行います。商品、モノ全体としてはアメリカの方がデフレ傾向にあるのですが、注目すべきはサービス全体の物価です。日本では0.2パーセントしか上がっていないのに、アメリカでは3パーセントものアップ。特に病院サービスのカテゴリーでの日米の差が大きいのです。これは、アメリカが基本的に自由診療の国だからにほかなりません。日本は公定価格の診療報酬で統制がきいており、それは医療分野だけでなく大学の授業料についても同様です。それに対してアメリカでは、非常に多くの分野の価格が市場メカニズムのなかで機能しているのです。
金融政策とは、つまるところこうした社会の構造問題に根差しています。小黒氏はこのことを指摘し、日本も今後、保険適用と保険外の自費負担を組み合わせた混合医療や、混合保育、混合介護などを広げていくべきだと説いています。
金融政策はあくまでも等価交換
もう一つ、物価が上がらない理由として日銀が抱える問題があります。それは大量に発行されている国債です。なぜなら、日銀がいくら国債を買っても、国家全体の債務が減ることにはならないからです。大規模金融緩和政策の影響も看過できませんが、もっとも重要なのは政府と日銀の関係であり、小黒氏はそれを「政府が親会社、日銀が子会社」という関係のようだと説明します。
日銀がやっているのは金融政策であって財政政策でないため、日銀が親会社、すなわち日本政府の国債を買っても親と子を連結して見た場合、債務は減りません。ですから、政府は消費税アップを初めとする課税政策でなんとか事態を打開しようとしているのですが、消費増税先送りなどその歩調は順調とはいえないのが現状です。
たとえば、日銀が金融政策として400兆円の国債を買ったとしても、金融政策はあくまでも等価交換であり、政府の債務が400兆円分減ることにはならないというわけです。
国債は私たちの預金で支えられている
日本銀行のバランスシートは全体で480兆円ほどで、その主な内訳は発行銀行券、当座預金、政府預金という負債となり、これが資産の国債を支えています。上述した金融政策が等価交換という理由の背景には、私たちの預金で国債を買い支えているという事実があります。日銀が民間銀行から国債を買う場合、その購入代金は民間銀行が持っている当座預金に振り込まれ、それが準備として記されます。こうしてバランスシート上変化するのは、国債と準備の部分だけということになります。こうした全体の流れを見れば、民間銀行は私たちが預けたお金から国債を購入し、準備は民間銀行の資産だけが日銀に預けられることとなる。日銀はそれを使って国債を買うという構図になり、結局これは日銀が持つ国債も、民間銀行がもつ国債もすべて私たちの預金で支えられているということになるのです。
こうしてみると、物価が適正に上がっていくには、社会構造だけでなく、日本全体のお財布の構造改革が必要なのではないかと思えてきます。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
チベット、内モンゴル、新疆ウイグルなど、少数民族に対する深刻な人権侵害をめぐって欧米諸国から強い批判を浴びている中国。しかし、こうした人権問題は今に始まったことではない。中華人民共和国建国の経緯と中国共産党の思...
収録日:2021/10/15
追加日:2021/12/24
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
高度成長のために頑張った日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の評価を得たが、その後の日本企業の凋落、競争力の低下を考えると、その弊害を感じずにはおられない。読書人口が減っている現状をみると、いつのまにか「世界...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/12/01
質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?
歴史の探り方、活かし方(7)史料の真贋を見極めるために
歴史上の出来事の本質を知るには、その真贋を見定めなければいけない。そのためにはどうすればいいのか。記述の異なる複数の本がある場合、いかにして真実を見極めるか。また、司馬遼太郎の作品が「歴史事実」として認識されて...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/12/02
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントが世界的に普及し始めたのは1990年代。ソフトウェア産業の発展とともに拡大を続け、時代のニーズを受けて多くのシーンに定着してきた。今回は、その基本に立ち返り、国際標準をもとに、プロジェクトと...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/03


