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日本人口減少問題の原因を人口ピラミッドから読み解く
日本の少子化及び人口減少問題を語る時、しばしば例示されるのが、人口構成を年齢別に表した「人口ピラミッド」ですが、日本の場合、それはもはやピラミッド型を成してはいません。つり鐘型からさらに細身のつぼ型に変化しているのです。この形の変化から少子化及び人口減少問題のメカニズムを読み解くのが津田塾大学総合政策部教授・森田朗氏です。
この状態が、医学の発達や経済成長により変化してきます。乳幼児の死が減り、栄養状態もよくなり、さらに人々の衛生観念や知識も発達したからです。ここで人口構成はピラミッド型からつり鐘型時代に変化していきます。寿命が延びたために底辺の広さをある年齢まで保ったまま人口が推移し、70歳くらいから傾斜して先細りになっていくという形です。
しかし、少子化が進んでいる事実は変わらないため、やがて世代交代が進むにつれて人口構成はさらに変化します。つまりつり鐘型がさらに細身になり、現在のようなつぼ型になるのです。この形の変化こそが、高齢化と少子化による人口減少のメカニズムです。
ここに立ちはだかるのは、医療は進歩しても出産に適した年齢というものは変わらないという現実です。実際に、20歳から39歳の女性の約95パーセントから子どもが生まれており、いくら昔と比較して格段に高齢出産が可能になったとはいえ、人体の仕組みのうえで出産年齢には限界があります。また、その出産可能な人口の絶対数が少子化により減っているわけですから、さらに少子化に拍車がかかることとなり、加えて、生まれてきた子どもが肉体的にも精神的にも母親になれるまでには20~30年かかるという事実があります。
つまり、政策的な少子化対策では急激な人口増加は望めず、劇的な人口減少の歯止め効果は生まれないということなのです。
このようなメカニズムを知ると、ヒトという生物の仕組みそのものが人口減少の要因であり、それが変わらない限り人口減少は人類の宿命なのではないか、とも思えてきます。実際に日本だけでなく多くの先進国は既に、同じような悩みを持ち、発展途上国も徐々に少子高齢化から人口減少問題に直面しつつあるのです。宿命とも言える人口減少のさなかにあって、今こそ私たちは人生の質を見直す岐路に立たされているのではないでしょうか。
長きにわたる「ピラミッド型」から「つり鐘型」へ
「人口ピラミッド」と聞いてすぐに思い浮かべるのが、下が広く上がとんがった三角形で、この形の人口構成が歴史的にも長く続いてきました。日本も1965年時点ではこの三角形の人口構成だったのです。この三角形は、子どもがたくさん生まれても医療が発達しておらず、栄養状態も十分でないという現実、また戦争などの影響により作り出されていたものでした。平均寿命も短く、70歳まで生きる人は稀な存在、文字どおりの古希であったわけです。この状態が、医学の発達や経済成長により変化してきます。乳幼児の死が減り、栄養状態もよくなり、さらに人々の衛生観念や知識も発達したからです。ここで人口構成はピラミッド型からつり鐘型時代に変化していきます。寿命が延びたために底辺の広さをある年齢まで保ったまま人口が推移し、70歳くらいから傾斜して先細りになっていくという形です。
「つり鐘型」はやがて「つぼ型」に変化する
実は、日本はピラミッド型からつり鐘型へ移行しつつも、2010年くらいまでは人口は増えていたのです。これが人口減少のメカニズムのおもしろさというか不思議なところでもあるのですが、つり鐘状態では人生のスパンが長くなるため晩婚化が進みそれは少子化現象を生みだします。しかし、その一方で、寿命は延びているわけですから昔なら50歳で亡くなっていた人も亡くならない。亡くなる人の数が圧倒的に少なくなるために総人口としては増えていたのです。しかし、少子化が進んでいる事実は変わらないため、やがて世代交代が進むにつれて人口構成はさらに変化します。つまりつり鐘型がさらに細身になり、現在のようなつぼ型になるのです。この形の変化こそが、高齢化と少子化による人口減少のメカニズムです。
少子化対策で問題は解決するのか?
このようなメカニズムが明らかになったところで、私たちは「生まれてくる子どもがもっと増えるように、政策やその他の支援対策が必要だ」と考えます。しかし、森田氏は確かに少子化対策や、それに伴う保育所の整備、あるいは働き方改革などによるワーキングマザーの支援は重要だが、これらのことで合計特殊出生率が上がったとしても人口減少は防げないと言います。ここに立ちはだかるのは、医療は進歩しても出産に適した年齢というものは変わらないという現実です。実際に、20歳から39歳の女性の約95パーセントから子どもが生まれており、いくら昔と比較して格段に高齢出産が可能になったとはいえ、人体の仕組みのうえで出産年齢には限界があります。また、その出産可能な人口の絶対数が少子化により減っているわけですから、さらに少子化に拍車がかかることとなり、加えて、生まれてきた子どもが肉体的にも精神的にも母親になれるまでには20~30年かかるという事実があります。
つまり、政策的な少子化対策では急激な人口増加は望めず、劇的な人口減少の歯止め効果は生まれないということなのです。
このようなメカニズムを知ると、ヒトという生物の仕組みそのものが人口減少の要因であり、それが変わらない限り人口減少は人類の宿命なのではないか、とも思えてきます。実際に日本だけでなく多くの先進国は既に、同じような悩みを持ち、発展途上国も徐々に少子高齢化から人口減少問題に直面しつつあるのです。宿命とも言える人口減少のさなかにあって、今こそ私たちは人生の質を見直す岐路に立たされているのではないでしょうか。
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