テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.09.26

アジアン・ソウルフード「納豆」

 「日本人はなぜ納豆なんて食べられるの、信じられない!」という外国人はいまだに多いようだ。そういった反応が多いからだろうか、私たちは「納豆は日本固有の食べ物だ」と思いがちだが、実はそうではない。


納豆は、日本だけの食べ物ではない!

 納豆は、ラオス、タイ、ミャンマー、遠くインド・ネパールまで、東南アジアを中心に広く食べられているのだ。ラオスやタイでは「トゥアナオ」、ミャンマーでは「ぺーボゥッ」、インド・ネパールでは「キネマ」などと呼ばれているという。カンボジアには、「シエン」という独特の熟成納豆もある。

 しかし、一言で納豆といっても、形状、料理法などは地域によってさまざまだ。例えば形状でいえば、日本では「糸引き納豆」が一般的だが、他の国の納豆は、むしろ糸が引かない納豆のほうが多いらしい。さらに、実は粒状納豆以外に、ひきわり状納豆、干し納豆、蒸し納豆、乾燥せんべい状納豆、味噌状納豆などがあり、粒状をあまり食べない地域も多い。

 味付けも辛かったり甘かったりといろいろ。日本では古来、麦わらで納豆を作ってきたが、ほかの国ではさまざまな植物を使っており、いまでは植物をまったく使わずにプラスチックバッグで大量に作る地域もある。納豆文化は、それぞれ日本とはかなり異なるのだ。横山智『納豆の起源』を参考に、その一端をかいつまんでご紹介する。


タイ北部では、もち米と一緒に食べる

 ラオス北部やタイ北部では、納豆「トゥアナオ」はメジャーな食べ物だ。特によく食べられているのが「カオ・ソーイ」(タイではカオ・ソーイ・ナムナー)で、納豆をたっぷり混ぜた豚そぼろソースをかけた米麺である。

 タイ北部の民族タイ・ヤイの村では、各家庭が自宅で軽く糸を引く納豆を作り、日常的にさまざまな料理に使っている。自家製納豆を作るタイ・ヤイの人々の納豆へのこだわりは、スーパーで既製品の納豆を買うだけの日本人よりも、ずっと強いという。それからタイ北部では、日本に似て納豆をもち米と一緒に食べる習慣がある。


ミャンマーの一部では、糸引き納豆が人気

 ミャンマーでも、タイ系民族が多く住むシャン州、カチン州などでは、日常的に納豆「ぺーボゥッ」を食べている。特にカチン州の一部では、日本の納豆とほとんど変わらない糸引き納豆が売られており、糸引きが強いほうが美味しくて売れるという感覚も日本人と近い。

 ラオスやタイはひきわり状の納豆が多いのだが、ミャンマーは粒状納豆がポピュラーだ。ただ、ごはんと一緒に納豆を食べる習慣はない。ラオス、タイ、ミャンマーともに、乾燥せんべい状の納豆がよく見られるのも大きな特徴だ。


遠くネパールでも納豆を食べる

 日本から遠く離れたヒマラヤに住むネパール系の人々も、納豆「キネマ」をよく食べる。ほとんどが糸引き納豆から作られた干し納豆だ。彼らがよく作るメニューは、なんと、干し納豆をお湯で戻してカレーに入れる「納豆カレー」だ。また、ネパールでは自家製納豆が一般的だが、驚いたことに新聞紙と段ボールを使って作る人が多い。

 世界の納豆の食べ方や味付け、つくり方は、実にバリエーション豊富だが、納豆そのものの基本的な味はどこも同じ。納豆好きなら、ほとんどの食べ方を美味しく味わえるようだ。アジア旅行の楽しみとして、一つ納豆料理を探してみてはいかがだろうか。

<参考文献>
・『納豆の起源』(横山智著 NHK出版)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道

機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
木下康司
元財務事務次官
2

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

地政学入門 ヨーロッパ編(9)EUの深化・拡大とトルコの問題

国際政治の理論として国同士の経済交流、相互依存が安全保障、つまり平和を維持できると伝統的に考えられてきたが、今般の国際政治ではそれは必ずしも当てはまらないようだ。そこでEUの問題である。国の垣根を越えて世界国家に...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/30
小原雅博
東京大学名誉教授
3

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者
4

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か

昨今、生成AIに代表されるようにAIの進化が目覚ましく、「AIに代わられる仕事、代わられない仕事」といったテーマが巷で非常に話題となっている。では、AIに代わられない事とは何であろうか。そこで、『江藤淳と加藤典洋』(文...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/25
與那覇潤
評論家
5

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション

私たちに欠かせない「睡眠」。そのメカニズムや役割についていまだ謎も多いが、それでも近年は解明が進み、私たちの健康に大きく関与することが明らかになっている。まずは最新情報を盛り込んだ睡眠が果たす5つの役割を紹介し、...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/06/05
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授