●予測不能な恐怖で権力を確固たるものにする
マイケル・ウォルフというベストセラー・ライターが「Fire and Fury(邦題:『火と怒り』)」という本を書きました。さらに過激なのは、ボブ・ウッドワード氏です。厚い立派な「Fear(邦題:『恐怖の男』)」という本を書きました。私は英語で読んだのですが、単語を知らなくても読めるという名文で素晴らしい。今、日本語版も出ています。
そこに詳しく書いてあるのですが、要するにドナルド・トランプ氏は部下に対して、才能・力量はほとんど見ずに忠誠心だけを評価します。それから、非常に権力信仰です。権力の基本は何かというと、「Fear(恐怖)」だというのです。そして、恐怖はどこからくるかというと、突然決断をする、予測がつかない、どこを向いていて、どこへ食い付いてくるか分からない、その恐怖です。
ホワイトハウスはその中で、互いの猜疑、裏切り、中傷、権力闘争などにあふれています。この話をどこかの大学の学生さんにしていたら、「ホワイトハウスですか、ブラックハウスですか」という質問がありました。これはナイス・クエスチョンですよね。現状はそのような感じです。
●常識派や国際協調派が次々と追い払われている
そして、常識派や国際協調派が次々と追い払われています。ゴールドマン・サックスの会長をやっていた優秀な経営者で、ゲイリー・コーンという人がいます。ボブ・ウッドワード氏の本の中に何度も出てくるのですが、トランプ大統領が高率関税を掛けるというので、コーン氏は自由貿易や世界経済について何度もレクチャーするのですが、トランプ大統領は理解せず、また理解しようともしなかったようです。そこで、とうとう高率関税を掛けるというのに付き合っていられないということで辞任しました。
次はレックス・ティラーソン氏ですが、エクソンモビールの前会長で、世界中に事業所や工場を持っているのです。本当に立派な人なのですが、辞めさせられました。しかし、そのことをどのように知ったのでしょうか。トランプ大統領から直接連絡はありません。Twitterを見たら、飛行機の中で後任者を決めた、とありました。それから1時間後に電話が掛かってきて、「やあ、サンキュー、やめてもらうよ」といわれたそうです。
けれども、このティラーソン氏も、トランプ大統領の話をしている時、「moronではないか」と言ったことがあるそうです。新聞記者がそのように伝えてしまったのですが、本当かどうか否定はしなかったのです。「moron」とは低能という意味です。トランプ大統領の耳に入っていますから、そのようなことになったのでしょう。
大変残念なのは、ジェームズ・マティス氏です。彼は元海兵隊の大将です。「Mad Dog(荒くれもの、狂犬)」という異名が付いています。実は全然そういう人ではなく、7,000~8,000冊の蔵書にいつも目を通すような読書家で、思慮深い人なのです。そして、いつも「同盟国が重要だ」って言って説き続けたのです。
ただし、2018年12月にトランプ大統領はISに勝ったので引き揚げると言いました。そうすると、力の空白が生じます。力の空白をつくるということは、戦争になる可能性が高まるので非常に無責任なことです。マティス氏はそれを注意したのですが、トランプ大統領はやめません。結局、マティス氏は辞めさせられました。ですから、「唯一のホワイトハウスの最後の大人が去った」といわれています。
●今はホワイトハウスというよりブラックハウス!?
ではホワイトハウスにはどのような人が残っているのでしょうか。ティラーソン氏の後任は、マイク・ポンペオという人ですが、彼は、イラン核合意は最悪の協定、CIAによる拷問もOK、イスラーム教徒の入国禁止もOKということで、トランプ大統領は自分とは波長が合うと言っています。
それから、ハーバート・マクマスター前陸軍中将が安全保障担当の最高補佐官だったのですが、口うるさいということで辞めさせられました。次に入ってきたのは、ジョン・ボルトンという白いひげの男性です。彼はタカ派です。北朝鮮やイラクへの武力攻撃をずっと主張していた人で、ネオコンです。
また、ピーター・ナヴァロという男性が貿易担当の補佐官なのですが、この人は強硬な反中国派です。
ロバート・ライトハイザーという人がいますが、結構真面目です。USTR(アメリカ合衆国通商代表部)代表で、対中交渉の責任者をやっています。彼は、不公正貿易は絶対許さないということで、貿易は縮小しても良いなどと平気で言っているのです。そのような人たちがずらずらといるのです。そう考えると、そこはホワイトハウスというよりブラックハウスでしょうか。
●アメリカの大統領選挙は選挙人制度を取っている
さらにロシア疑惑があります。これは今、非常に...