●ゲルマン民族の移動とローマへの影響
世界史の3つ目の調理法ないし切り口として、世界史の中の異民族の移動というテーマがあります。現代においてもちょうど、移民や難民の問題が非常に大きな問題になっていますが、古代末期でいえば、ゲルマン民族の移動がよく挙げられます。
最近でも、古代におけるゲルマン民族の移動とはどのようなものであったかが問われることがよくあります。ゲルマン民族は4世紀の末から5世紀にかける時期に移動してきて、ローマ帝国、特に西ローマ帝国が非常に混乱した状態になります。この異民族の侵入に対して、ローマがどのようにそれを受け入れ、あるいは対応してきたかは、今のヨーロッパなどが直面している問題と密接に関係しています。
特に、ドイツは皮肉な状況に置かれています。ドイツ人の祖先はゲルマン民族です。古代においてローマに入ってきたゲルマン民族が、現代においては移民問題への対応を迫られているわけです。
ドイツにとって今最も大きな問題は、日本と同じで少子化です。フランスなどはその問題からうまく立ち直れたのですが、ドイツはヨーロッパの中でも少子化対策に苦労している国で、外から労働力をいれないといけない状況になっています。しかし、実際に外から労働力を入れると、文化摩擦がいろいろと起こってきます。ですから今、アンゲラ・メルケル首相はそこに非常に苦労しているわけです。このゲルマン民族が古代末期にローマに入ってきたことは、確かにローマ帝国が滅亡した唯一の理由ではありませんが、1つの原因になったといえます。
●文化的・宗教的他者との接触
似たようなことは、例えばキリスト教の普及に関してもいえます。キリスト教徒は、ギリシア人やローマ人のそれまでのものの考え方や行動の規範からすると、全く違う行動の規範を有しています。ですから極端な人の場合、キリスト教徒という異質な人々が現れたことに着目して、ローマ帝国の滅亡はキリスト教というがん細胞によって引き起こされたのだといいます。ゲルマン民族の侵入よりも、キリスト教の普及の方が、大きな影響だったという人もいます。
話を現代に向けますと、移民や難民の問題が特にヨーロッパで盛んに論じられるのはなぜでしょうか。ヨーロッパの場合は、移民や難民の中に特にイスラム教徒が多いということで、宗教的な対立というものが、文化摩擦として当然起こってきます。それからアメリカでも、ドナルド・トランプ大統領がいろいろなことをして、それが報道されているわけです。
●ロボットやAIの問題は異民族の侵入と似たような問題である
それから、私が最近注目しているものとして、ロボット、AIの問題があります。最近では、ユヴァル・ノア・ハラリ氏というユダヤ人の歴史家が書いた、『サピエンス全史』というものがありますが、その続編として『ホモ・デウス』という本が出版されて、日本でもかなり読まれているようです。私は、その本を読んで書評する中で、ロボットやAIと人間が共存する時代が来るというのは避けられないだろう、と感じました。
そういった時代が来たときに、人間はロボットをどう扱うでしょうか。『鉄腕アトム』の中に「アトムの最後」という話があります。これは結局、ロボットと人間とがある程度共存しているのですが、それは表面的なものであったという話です。そこでは、自分の恋人がいつの間にかロボットであったと分かったときに、その恋人を殺してしまうという場面があったりします。
ロボットの登場については、今までと全然違った世界の話であると、われわれは考えがちです。しかしおそらく、別の見方をするならば、異民族が侵入してくるのと同じようなものだとも考えられます。つまり、ゲルマン民族がやってきたことも、ローマ人にとってはやはり、自分たちとは考え方が違う異質な人間が入ってきたことを意味するわけです。
ですからこれからの未来において、ロボットやあるいはドローンのようなものが多用されていくとき、一つの見方としては異民族の侵入という問題を世界史の中に問い掛けて、そこからわれわれがどのような教訓を学び取るか、これが大事なのではないかと思います。
●世界史の切り口を踏まえれば歴史を深く理解できる
世界史を考える際には、いろいろな切り口があります。そしてそういう目で見ていけば、問題が非常に関連していきますし、いろいろな比較をすることによって、ものごとがより鮮明に分かりやすくなるわけです。
人間の思考法には結局、2つのものしかないといわれています。1つが比較です。ものごとを比較することによって、それらが非常に分かりやすくなります。もう1つは接触です。AとBが接触したから、AがBに影響を与えるということです。人...